◆罪刑法定主義(自由主義と近代立憲主義(=為政者の権力は法で縛らねばならない)の影響)

=犯罰は律でめられていなければならない。(:憲法31条より導かれる)

↓・・・立憲主義幕開け当初は権力者に都合の良い抜け道だらけのザル法

派生原則(∵権力者の抜け道を塞ぐ必要)


①法律主義(立法機関が定めるため、民主主義的側面が担保される)=出所不明な慣習刑法の排除

*命令や規則(行政機関が発令)により刑罰法規の内容が決められてもよいか?

○猿払事件:最判昭49・11・6 刑集28・9・393

→国家公務員法102条1項:人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

→国家公務員法102条1項違反の罰則(国公法110条19号:3年以下の懲役または100万円以下の罰金)がある。

*〈論点〉政治的行為の具体的内容を定めた人事院規則は「法律」ではなく、人事院の官僚が定めた「命令」。人事院規則の中に国公法110条19号の実質的内容が定められていることは、犯罪と刑罰は法律で定められていなければならないという罪刑法定主義に違反しないか?

→法律で余り細かいところまで規定するのでは社会の変化に対応できないから許容される。(判例・通説)

↑刑罰法規の内容を行政機関に完全に委ねたのでは法律主義の原則に反する。(有力説)

*条例(地方公共団体が制定する法令)に刑罰法規の内容が定められてよいか?

→地方自治法14条3項は、条例が包括的に罰則の制定をすることを委任。

*〈論点〉「法律」でない「条例」に罰則を定めることは、「法律」主義に違反するのでは?

→地方議会により制定されるから民主主義的要請を満足している。(判例・通説)


②事故法遡及処罰の禁止

○犯罪と刑罰は犯罪行為が行われる以前の段階で規定しなければならない。(憲法39条)
→自由主義的側面(不意打ち処罰を防止し国民の「行動の自由」を確保)
※ただし、法律が遡及的に適用されることはないから実際には殆ど問題にならない。
*行為当時の判例によれば無罪となるはずだが、行為者に不利益に変更された判例を根拠にして被告人を処罰することは遡及処罰の禁止原則に反しないか?
○岩教組事件第2次上告審判決:最判平8・11・18 刑集50・10・745
①昭44:処罰範囲を限定(二重の絞り論)→‪不可罰
②昭48:処罰範囲を拡張(国家公務員につき)→可罰的(国家公務員なら可罰的)
③被告人(地方公務員)の行為:昭51:処罰範囲を拡張(地方公務員につき)→可罰的
☆地方公務員であれば国家公務員ではないので不可罰だと思っていたが処罰されたという事案。

(学説)
a)遡及処罰の禁止原則を適用(大塚、福田など多数)
・刑法の規定は抽象的で簡略な表現のため、どういう行為が処罰されるかは実際上判例により明らかになる。よって、それを信頼して行為した者を保護するべき。
↑b)遡及処罰の禁止原則を不適用(中森、町野など有力)
・わが国では判例=法源ではない→判例を信じた者は違法性の錯誤論で救済すればよい。

③被告人に不利な法の準用(類推解釈)の禁止
○刑罰法規に処罰規定はないが「倫理上よろしくない行為」に、この行為と特徴が類似する刑法法規の規定を適用し、刑罰法規に処罰規定がない「倫理上よろしくない行為」を処罰することは許されない。
→自由主義的側面(不意打ち処罰を防止し国民の「行動の自由」を確保)
(例:嘘吐きと詐欺罪、不倫と重婚罪、デジタル万引きと窃盗罪、食い逃げと窃盗罪および詐欺罪etc.)

④絶対的不定期刑の禁止(例:窃盗の罪を犯した者は懲役に処する)
○刑罰と刑期は明確に法定されなければならない←法的根拠なし。
→罪刑法定主義の趣旨・・・罪刑均衡と法的安定性から当然の要請。
◆罪刑法定主義の展開 ─第二次世界大戦後、実体的デュー・プロセスの原理(英米法)の影響
⑤明確性の原則:刑罰法規はなるべく明確に規定されていなければならない。
⑥内容の適正
1)罰すべきでない行為を含んではいけない。
○福岡県青少年保護育成条例事件:最判昭60・10・23 刑集39・6・413
→「淫行又はわいせつの行為」では範囲が広すぎないか?

2)罪刑均衡(犯罪と軽重と刑罰の軽重にはバランスが必要)
◇尊属殺人罪違憲判決:最判昭48・4・4 刑集27・3・265
○刑法旧200条の尊属殺人罪の法定刑:死刑・無期懲役のみ規定
→法律上の軽減を1回(68条)、酌量軽減を1回しても(67条、71条)、3年半の懲役(実刑判決)となり(68条)、執行猶予がつかず刑務所に収監されることになる(25条)。

◆犯罪の定義=①構成要件に該当する②違法かつ③有責な行為。
◇犯罪の成立要件(犯罪の成否の検討順序)
例)傷害致死罪(205条)
[事例問題]
Xは、路上で肩がぶつかったAに突然殴られたため、身を護るためにAの顔面を殴打したところ、Aは転倒して地面に頭部をぶつけ脳挫傷で死亡した。Xの罪責を検討せよ。  

[解答例]
構成要件該当性:傷害致死罪(205条)
違法阻却事由:正当防衛(36条1項)→不可罰(無罪)
責任阻却事由:心神喪失(39条1項)→不可罰(無罪)
結論:Xは△△罪(刑法△△条)の罪責を負う、または、Xは不可罰である。
①構成要件該当性・・ある事実が犯罪の型枠に当てはまるか。
○構成要件:刑罰法規を解釈して出てくる刑法上禁じられた行為の類型(枠組み)
→199条殺人罪の刑罰法規:「人を  殺し  た  者」(本文)
→199条殺人罪の構成要件
=「殺意をもって  他人の生命を  自然の死期に先立って断絶させ  た  者」
→この構成要件に該当しない行為は不可罰。
②違法性(阻却事由)の判断・・構成要件該当行為が本当に「悪い」行為か。
◇構成要件に該当した行為が本当に違法(悪い)か否(良い)かの判断
○構成要件は違法行為(刑法が禁止した行為)の型・類型
→構成要件に該当した行為は違法となるのが原則。
しかし
○殺害されそうになった女性が加害者を正当防衛で殺害する場合、刑務官が死刑を執行する場合医師が外科手術をする場合・・・
→(例えば、殺人罪の)構成要件に該当するが、例外的に違法性が阻却される(刑法が禁止していない)場合がある。
→②の違法性では、このような違法性阻却事由(例外的に違法性がなくなるような事情)を検討する
③責任(阻却事由)の判断・・構成要件に該当した違法行為をした者を非難できるか。
○構成要件に該当する違法な行為をした犯人の判断に対して非難できるか否かの判断
→成人で精神的にも健常であれば原則有責。
しかし
○統合失調症(精神分裂病)の影響があった場合、ピストルで脅されて行った場合・・・
→構成要件に該当する違法な行為をしているが、当該行為者を法的に非難(して刑罰を科すことが)できない
→③の有責性(=犯人に対して“けしからん”と言えるかどうか)では、責任阻却事由(例外的に責任=法的非難がなくなるような事情)を検討する。