くたくたになって着られなくなった洋服をチョキチョキ、掃除用に小さくしておきます。
この作業をするたびに思い出すのは
私が『もの』について
『捨てられない』というよりは
『捨てたくない』と思うようになったきっかけの、彼女のこと。
1999年から約4年半、香港に住んでいました。
香港で出産し、その後半年は
夫婦二人で子供の面倒を見ていましたが
知人から勧められて
フィリピン人のお手伝いさんに週に2回3時間ずつ来てもらうことにしました。
香港では、アマさんと呼ばれるお手伝いさん(主にフィリピンの方達)を雇うことは一般的なことです。
うちに来てくれた人は
長年日本人家庭に住み込みで常駐し
その家庭の空き時間にパートタイムでよその家庭を訪問していて
子供好きですごく面倒見が良くて
あたたかい「お母さん」のような人でした。
ずっと以前に勤めていた
イギリス人の家庭で親族に見初められて
イギリス人のパートナーができて、経済的な余裕はあったはずですが
フィリピンに住む
既に結婚した息子たちと
その家族親族を養うのは自分の力でやるんだと
朝早くから夜遅くまで働き、年に一回帰省するのを楽しみにしていた彼女。
私が買い物に行く間の子供の面倒だけをお願いしていたのだけど、娘が昼寝をしたすきに掃除したりアイロンもかけてくれてました。当時主流だったブーツカットのジーンズにスプレー糊をたっぷりかけてばっちりセンタープレスに・・・( ̄∀ ̄)
いつも顔全体を使って大きく笑って
朗らかな太陽のような人でした。
今は香港にいるのか、イギリスにいるのか。
元気にしてるかな。
ある日、彼女が来る前に
ヨレヨレのくたくたで白っちゃけて着古したタンクトップをゴミ箱に捨てました。
子供をお願いして買い物に行き
帰宅したら
彼女がタンクトップを手に持っていました。
「ボス(と呼ばれていた)、これはどうして捨てたの?」
え・・・もう古くなってよれよれだから・・・。
「まだまだ着られるのに。
フィリピンでは着るものがなくて困っている子達がたくさんいるのに。
お願いだから
捨てるならフィリピンに送るから私にちょうだい。」
と言われました。
更に、形があるものなら着られるんだという意味合いのことも言っていたと思います。
もうよれよれだから着られないと
ゴミ箱に捨てた自分。
まだまだ着られると言って
ゴミ箱から拾った彼女。
私はものを捨てないほうだと思っていた。
大切に使うほうだと思っていた。
そんな自分を恥じた瞬間です。
私を叱ったわけではありません。
ただ事実を伝えて、今度からは捨てないでと言われただけ。
けれど、彼女の悲しみの表情、怒りもこもっていたように見えた目
それが忘れられないのです。
捨てられない気持ちが高じて
息苦しくなった時期もありました。
片づけを学んでからは
「片づけ=捨てる」ではないことを知り
自分には思考の整理が必要だったことを理解して、ずいぶん楽になりました。
けれど、いざ行動に移すとき
その過程には、ものを「手放す」ことが含まれます。
手放す
譲る
ごめんなさいと言ってさようなら
ありがとうと感謝してさようなら
どんな柔らかい耳ざわりのいい言葉で言い換えてみても、自分がものの役目を全うさせられなかったことに変わりはありません。
選ぶことも捨てることすらもできない人たちがいるなかで、捨てる捨てないという選択肢があることがそもそも贅沢なこと。
昔感じた心の痛みを抱えながら
今もずっと
暮らすこととものとの関係について考えています。
私がこう考えているからと言って
それを押しつけたいわけではありません。
あくまでも私がそう感じただけであり
たくさん手放した人たちに反省してと言っているわけでもない。
責めているわけでもない。
私たちには私たちの暮らしがあります。
今、片づけに悩んでいるのなら
処分して、すっきりさせて、好きなことをやったほうがいい。
けれど
どうしても手放さなくてはならなくなったときには
それはとても贅沢なことだったのだとほんの少しでも感じてもらえたなら。
次に何かを手に入れようとしたときに
これは本当に必要なものなのか
自分を幸せにしてくれるものなのかと考えるきっかけになれたなら。
ものを買うときのワクワクは楽しいものです。
最初から手放すことを考えて買うのではつまらないですが、
『入口があれば出口が必要』ということを頭の片隅に置いておいてもらえたら。
今、私自身はリメイク、リユースできるものは手を加えて使い、手放すものはどこかの誰かの役に立てるようにと考えます。
どうしてもそうできないものは心を痛めつつ処分しています。
なんだかんだと結構な量の『もの』を手放し、捨ててきました。
これからもそうしてしまうのかもしれません。
いまの自分が好きなものに囲まれて暮らせていることを
感謝しなくてはいけないと強く思っています。
*ライフオーガナイザー協会のウェブマガジンには 手放し先リストも掲載されています。検討されている方は参考になさってくださいね。