お待たせしました~!
悪女について編、高橋お伝のまとめ記事が出来たよ~★
やっぱり悪女は人生を追って欲しいので、こういったまとめ記事が逢うと思う。
長くなるけど、何日にも分けてじっくり読んでね!
高橋お伝
高橋お伝は巷では稀代の毒婦として知られている。病床の夫を毒殺し、愛人と共に数々の強盗を働いていたのだと。ところが、その実際は実に同情すべき人物である。彼女が殺したのはただ一人。その肉体を弄び、蔑ろにした男だけだった。
高橋お伝(戸籍名でん)は上野国(今の群馬県)利根郡下坂村に生まれた。母親の奉公先たる沼田藩家老、広瀬半右衛門の落し胤だという。その後、母親は高橋勘五右衛門に嫁ぎ、お伝は同家兄九右衛門に養女に出された。生まれながらに幸の薄さが滲み出ている。
19歳の時にお伝は高橋波之助と結婚する。色白の二枚目だった。夫婦仲は良く、共に器量良しとあって、誰もが羨む理想のカップルだったが、間もなく悲劇が二人を襲う。波之助が死病として恐れられた癩病(ハンセン病)を患ってしまうのだ。人権意識の低い当時のことだ。村八分同然の差別を受けたことだろう。それでもお伝は波之助を献身的に看病し、横浜の名医ヘボンを頼って上京したのが明治4年(1871年)暮れのことである。
二人が身を寄せたのは異母姉のかねのもとだった。お伝は治療費を稼ぐために働かなければならなかった。当初は女中奉公をしていたが、間もなく娼婦に身をやつした。異人相手はいい稼ぎになるとの噂を耳にしたからだ。つまり、お伝は夜嵐おきぬとは異なり、好き好んで色に溺れていたわけではないのだ。夫のために泣く泣く我が身を売っていたのである。毒婦とはほど遠い貞女の鑑だったのだ。
ところが、治療の甲斐なく波之助は翌年に逝ってしまう。間もなくかねも死亡する。これについては、かねの夫で古物商の後藤吉蔵が、美貌のお伝を手に入れるために相次いで毒を盛ったとの説もあるが、その真偽は今となっては判らない。
吉蔵の思惑にも拘らず、お伝がなびいたのは小川市太郎という色男だった。どうもお伝は面食いのようだ。市太郎は仕事にも就かずに酒と博打にうつつを抜かすヤクザ者だったが、お伝はそうと知りつつ尽くしたのである。
明治9年(1876年)8月、お伝と市太郎が二人で始めた茶の販売がうまく行かず、借金は嵩む一方だった。考えあぐねた末にお伝は、後藤吉蔵に二百円の借金を頼み込む。当初は「そんな大金はない」と突っぱねていた吉蔵だったが、やがて助平心がむくむくと頭をもたげて、
「何処かで一泊しないか」
お伝を誘い出したのが事件の前日、8月26日夕刻のことである。色良い返事が貰えると思ったお伝は、ためらうことなくこれに従い、蔵前片町の旅籠屋『丸竹』に一泊した。ところが、吉蔵はやることを終えると、そのままぐうすかと寝ちまった。翌朝、お伝は起きるなり吉蔵に改めて借金を頼み込んだ。すると吉蔵はコロリと態度を変えて、
「何度云ったら判るんだ。そんな大金などあるもんか」
こんちくしょう。昨晩のあれは一体なんだったんだい。猛烈な怒りに襲われたお伝は、気がついたら二度寝する吉蔵の喉を剃刀で掻き切っていた。
お伝は遺体を布団で覆い、財布の中から十一円を奪うと、偽装工作のためなのか、このような書き置きを書き綴った。
「此のものに五年いぜん姉をころされ、其のうへ私までひどうのふるまいをうけ候へども、せんかたなく候まま今日までむねんの月日をくらし、只今姉のかたきをうち候なり。今一度姉のはかまいりいたし、その上すみやかになのり出候。けしてにげかくれるひきょうはこれなく候。此のむね御たむろへ御とどけ下され候」
署名は「まつ」としている。
お伝が『丸竹』を後にしたのは午前7時頃のことである。その際に女中にこのように云い残している。
「用事が出来たので先に帰ります。主人は短気なので起さないようにお願いします」
お伝が逮捕されたのは9月9日のことだった。当初は吉蔵の殺害を認めていたが、裁判では一転して無罪を主張した。吉蔵は自殺だったというのだ。しかし、その主張は通らず、お伝には斬首が云い渡された。
明治12年(1879年)1月31日、高橋お伝は市ヶ谷監獄にて斬首された。彼女は「市さあん、市さあん」と小川市太郎の名前を叫んで暴れ回った。そのために八代目山田浅右衛門は二度も手元を狂わせ、三度目にようやく首を斬り落とすことが出来たと伝えられている。
この事件の市井での評判を耳にした明治政府は、道徳教育にお伝を利用することを思いついた。すなわち、貞節の尊さを説くためにお伝を稀代の毒婦に仕立て上げたのである。仮名垣魯文の『高橋阿伝夜叉譚』は政府の要請を受けて執筆されたものだったのだ。かくして、夫を毒殺しただの、強盗を働いていただのといった歪められたお伝の虚像が流布されるに至った次第である。その実像は何処にでもいる薄幸の女に過ぎなかったのだ。
(2009年5月14日/岸田裁月)
高橋お伝さんという生き方、いかがだろうか?
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