4科目めの受験が終わり、次の科目すなわち5科目めに何を勉強するかを決めるときが来た。必修科目である簿記論と財務諸表論、選択必修科目である法人税法の三科目は合格済みなので、基本的には残りの税法科目のどれを受験してもいい。国税徴収法や固定資産税法など三日目に登場する試験科目は一般にボリュームが少なくて勉強しやすいと言われるが、受験する人が少ないので開催される講座も多くない。私はどうせ勉強するなら実務に必須な税法を勉強したかった。目指したいのは国税三法。
税理士試験の受験校で教えている先生の多くは先生自身も受験生だった。すでに合格している科目を講師として教えながら、残った科目の受験を続けていて、最終的に官報合格できたときには受験校を退職して税理士事務所などに就職するというパターンが多かった。その頃所得税法を教えていたのがG先生で、G先生は前年末の発表で官報合格していた。だから、受験生の間では、G先生が教壇に立つ最後のシーズンだといううわさが流れていた。G先生は所得税法の先生を長く担当しておられて、授業がわかりやすいと言われていた。ベテランのG先生の授業を受ける最後のチャンスを逃す手はない。そう思って、所得税法を受験することに決めたのだった。その年は例年より所得税法の受講生が多かったと聞いている。
そのときすでに妻帯者で子持ちだったのだが、ハンサムでスリムで背が高い、かっこいい条件を備えたG先生は人気があって、所得税法のクラスは女子が多かった。初めて受ける昼間の授業は夜のクラスに比べて時間的余裕があるからなのか、昼食を一緒に食べるグループができた。できたと言っても、すでに前年以前から仲良くなっていた4人の女子グループに私がその年新たに参加したというだけなのだけれど。夜のクラスでは休憩時間などに多少話をする相手はいたのだが、女子会みたいな休憩時間は私にはとても新鮮だった。
朝早起きして洗濯機を回しながらお弁当を二つとおにぎりを余分に作り朝食の支度をする。しばらくしたらY男先生が起きてきて朝食を済ませたら身支度をして二人で学校に向かう。夜が遅い仕事なので朝は少し遅めの出勤が多い。Y男先生は職員室へ、私は授業がある日には教室へ行き、授業がない日には自習室へ行く。自習室は人気があって早い時間帯に満席になり、ほぼ一日中詰めている人が多いのでなかなか空きが出ない。
夕方になり買い物(いわゆるショッピングではなく家事のための買い物)がある日には近所のスーパーの特売時刻に合わせるように帰宅して主に食品の買い物を済ませ、野菜や魚や肉類はほとんど下ごしらえを済ませて冷凍したり冷蔵したりなど調理時間をできるだけ短縮する工夫をする。乾いた洗濯物を取り込んでたたんでタンスに片づけてざっと部屋全体を掃除する。夕食と入浴の支度をしたら後はY男先生が帰宅するまでは勉強の時間。
社会人相手の夜のクラスはスケジュールでは21時ころに終了する予定なのだが、Y男先生は自称も他称も「えんちょう先生」というぐらいに時間延長をすることが多い。そして授業が終わったら生徒さんからの質問に対応する。生徒さんが帰ったら教室を片付けて職員室に戻り次の授業のための準備や採点。帰宅は23時台になる。22時台に帰宅したら何か具合が悪くて早く帰宅したのかと思ってしまうほどだった。その前の勤務先では泊まり込みで仕事をしていたこともあるので午前になってもあまり驚かない。大体そんな毎日だった。
それまでの3年間は、昼間は仕事で平日はおもに夜間に時間を作って勉強するパターンだったので、昼間に勉強の時間が取れることが新鮮でありがたく、楽しかった。自宅にいても勉強することは不可能ではないのだが、自宅にいると誘惑が多い。営業訪問がやってくる。営業の電話もかかってくる。勉強からの逃避でつい掃除をしたり探し物をしたり、テレビだって見たくなる。私みたいに意志の弱い人間は勉強する以外のことができない環境を作ることが大事なので、学校に行って自習室で勉強を続けるのが一番だと思った。
どのような環境で勉強するのがベストなのかは人によって異なる。静かな自習室がいいという人もいるし、ざわめきが絶えないファーストフードの店がいいという人もいる。コーヒーが何度もお替りできるミスタードーナツは安価で長居できるのでとても人気があった。自分に合っている場所が見つかるととても勉強がはかどると思う。
