連れ合いが大学病院に入院することになった。
入院病棟がある病院では、病院に電話をかけて入院患者への取次ぎを頼むと、交換から病棟のナースステーションに電話が回される。以前であれば、そこで入院患者に電話がかかってきたことを伝え、患者がナースステーションに出向いて電話に出る、という風景があったのかもしれない。昔のドラマなどでは、見たことがある。
連れ合いが入院したとき、その病院では「電話の取次」を実施していなかった。つまり、ナースステーションまでは外部からの電話が回されるのだが、電話に出たナースや事務職員は、「電話があったことを入院患者に伝えるので、折り返し電話が入るのを待つように」と伝えて切るのだ。多くの人がすでにケータイやスマホを持っていて、電話取次の必要性自体が少なくなっていたのだろうし、電話の取次ぎは本来のナースの仕事ではないのだろう。
病棟のナースステーションの前にはテレホンカードが使える公衆電話が備え付けてあり、見舞いに行ったときにしばしば利用している方がいた。
入院前、連れ合いはドコモのケータイだったのだが、私はソフトバンクを利用していた。私のケータイは最初はデジタルツーカーで、仕事の関係で取引先が代理店だったので契約したのが始まりだ。長年の間に何度か機種を交換していったが、その間に電話会社がデジタルツーカーからJフォンになり(途中でもう一つあったような気がするが定かではない)、そこがソフトバンクに吸収されたので、結果的にソフトバンクのケータイを利用することになったのだった。
常日頃、夫婦間で頻繁に電話をかけあっていたわけではないので相互通話の利用料金についてほとんど考えたことがなかったのだが、両者の電話会社が異なるので通話ごとに従量料金が発生する。電話会社を統一すれば、家族間の相互通話は無料になる制度ができていた。入院してしまう人は簡単には外出できない。夫婦間といえども、本人が出向かなければ電話会社は代理での契約の締結や変更を受け付けない。したがって、私のほうがドコモに乗り換えるのが一番簡単だという結論になった。
入院中はほとんど毎朝、連れ合いから電話がかかってきた。朝食が終わり、朝の回診が終わり(定期的に教授回診、いわゆる大名行列も経験したと聞いた。ドクターXで見た医師の行列、入院したくはないが一度は本物を見てみたい)、一段落したころにかけてくる。
そのころ私はフリーランスで自宅で一人で仕事をしていたので、仕事の時間は比較的自由にきめることができた。午前中から昼にかけての時間で仕事を済ませ、午後3時からの面会時間に病院へ行く。下着やタオルやミネラルウォーターのペットボトル(病院の売店や販売機だと冷えているが高いので、通販で箱買いして自宅にストックを置いていた)の補充分を持っていき、夕食時まで滞在していろいろ会話をし、帰りには汚れ物を洗濯するために持ち帰る。それが大体のパターンだった。途中で看護師が検温に来たり、主治医チームが回って来たり。
電話連絡のときに、不足しているものや持ってきてほしいものを伝えるために、まず出来たのが「しぱたチェック」。し=シャツ、ぱ=パンツ(下着の)、た=タオル、の、入院ベッド周りに在庫している数を連絡してくる。その数から、その日に補充するそれぞれの数を決めればよい、というチェックリストだった。パジャマは、私の洗濯の負担を軽減するために、病院支給の病衣を利用していた(一日ごとの料金で清潔なものが日々貸与される)。個室ではなく大部屋なのでベッド周りに置くことができるスペースは限られている。その中でできるだけ不自由がないように必要なものをキープしておくことが必要だった。
後に、「あいうチェック」が加わる。あ=アクエリアスの500mlペットボトル、い=いろはすの500mlペットボトル、う=ウィダーインエネルギーのパック、である。エアコンで乾燥している病院内ではのどが渇き、無料の飲料水供給機は病棟内の食堂に設置されているが何度も往復するのは大変だし、夜間には出向くことができないので、なるべく少ない容量のペットボトル水類を常備することにしたのだった。ウィダーインゼリーは、抗がん剤のせいでほとんど食べられなかったときなどに(気休めではあるが)少しだけエネルギー補充ができるように。
入退院を繰り返していくうちにそんなノウハウみたいなものができていく。次の入院に役に立つかもしれないけれど、入院に慣れたくはない。このころはただ単純に、連れ合いが少しでも快適に入院生活を送ることができるように、そればかり考えていた。
そのほかに、入院が決まったときに、加入している生命保険の支社に連絡した。入院給付金が出るはずなので、どういう手続きが必要なのか、初めてなので何をしたらいいのかよくわからなかった。営業担当者がすぐに飛んできた。入院給付金の請求書類、請求のために必要な医師の診断書様式などをもらう。連絡したときには認識していなかったのだが、がんと診断されたら診断給付金が下りる契約なのだと説明されて驚いた。しばらくの間、連れ合いが仕事に復帰できるまでは収入は途絶える。ある程度の預金はあったが、この診断給付金は大いに役に立った。
