第4話 カオスケイプ軍港基地攻略戦~鋼鉄の吹雪~
年号は変わり、ZAC2107年2月。暗黒大陸でのネオゼネバス軍とガイロス帝国、へリック共和国連合軍との戦闘は、1月の年明けの休戦をはさみつつも、ネオゼネバス軍が南下し、カオスケイプ軍港基地に接近するにつれて激しさを増していた。
先の戦闘で活躍した『特殊偵察部隊』は、ネオゼネバス軍の本隊と合流し、『特殊偵察部隊』がガイロス帝国の基地を排除して開けた山脈の道を走破し、現在ネオゼネバス軍はカオスケイプ軍港基地を射程圏に収めた。
ネオゼネバスは既にカオスケイプ周辺の要塞や基地を既に手中に収めていて、事実上カオスケイプは孤立ていたが、実はそれは陸路の話。
海軍戦力に勝るガイロス、へリック連合軍は、北西に位置するチェピン軍事要塞から、海路で膨大な数の援軍をカオスケイプに派遣していた。
一方、敵に援軍を派遣させるのを防ぐために、ネオゼネバス軍は少々無茶に進軍している感も否めなかった。兵士は消耗し、疲弊している。
それに加え、この暗黒大陸の冬の極寒の気候が、その疲弊に拍車をかけた。ネオゼネバス軍は当初の予定通りの期間でカオスケイプを射程権に収めたが、予定以上にゾイドや兵士を消耗していた。
ここで、ネオゼネバスは当初のスケジュール通り、カオスケイプへ進軍を一時決定させたが、それは様々な要因から実現しなかった。
まず、そのまま進軍することに関しては、ネオゼネバス軍から批判の声が上がった。自分達兵士の消耗、ゾイド、弾薬、食料の消耗。さらには、その状態で無理矢理スケジュール通りに進軍させられたことへの上層部への怨念。
ネオゼネバス軍は、今崩壊してもおかしくないような状態にあった。
それに拍車をかけたのが、先に起きたカオスケイプにある向かう以上避けては通れないガイロス・へリック連合軍のメイズマシーン基地攻防戦である。
この戦闘で、ネオゼネバス軍は基地を確保できたが、消耗、疲弊していた兵士を更に消耗してしまった。当初の戦力を10とすると、現在の戦力は6~7。当初は8まで消耗されることをネオゼネバス軍は予定していたが、予想以上に消耗が激しかった。
仕方なくネオゼネバス軍上層部は、基地にネオゼネバス軍を駐留させ、エントランス湾基地から援軍を派遣、先行部隊に休憩をとらせることを決定した。
休息の期間は、1ヶ月と半。本国からの援軍部隊の到着、再編成などを考慮しての時間だった。
「やっと、纏まった休日ですね」
息抜きをするようにライガーゼロ・フルミネのコクピットでグロリアス=シュヴァイカー少尉がぽつりと漏らす。
「そうね。まぁ、私らはこうしてパトロールしているわけだけどもね」
「しょうがねぇだろ。決まりなんだから」
一方、バーサークテュランZSに搭乗するジルファー=ハート少佐、セイバータイガーカスタムに搭乗するラベルト=フォーマス中尉は愚痴を漏らしていた。
彼等はいずれも、高温地域の出身だ。この寒さは相当応える。
そしてそれは、ゾイドも同じだった。ネオゼネバスで使用しているゾイドは、彼等と同じように高温、多湿の地域にて生息していたゾイドが多い。
モルガやレッドホーンは地底族や神族と共に、高温、高圧の地底で生息していた。ライガーゼロやバーサークフューラーは高温、乾燥していた西方大陸だ。
更に天候は雪。しかも猛吹雪だ。雪の降る期間の短い西方大陸、もしくは降らない地底などで生息するゾイドは体験したことも無いようなもの。ゾイドには相当応え、寒冷地仕様の装備を施してもゾイドの出力の低下は抑えられない。
パイロットにとっても、吹雪は厳しい。視認できる距離は前方50メートルほどで、それから先はミルクのように白濁した光景だけが広がっている。
さらに惑星Ziの大気には様々な微粒子や金属粒子が飛び交っている。それは当然、雪にも含まれている。それが猛吹雪で舞うと今度は磁気嵐が発生して、金属粒子が含まれた雪は天然のチャフとなる。通信はよほど近くに寄らない限り通じない。
視界と通信が悪い以上、パイロットにも相当なストレスが溜まる。それは吹雪をまともに受けるゾイドも同じだった。
「相棒、どうした?寒いか?」
グロリアスの問いかけにフルミネは、低く唸って返す。
普通の人間でも、この返答が『そうだ』と理解するのは容易い。
「もう少しだ。もう少しで交代の時間だから」
寒いといって唸り続ける愛機を宥めるグロリアス。どうやら、フルミネ自信は寒いのに、パイロットであるグロリアス自身は暖かい環境下であるコクピットにいることに、フルミネは不満を持っているようだ。
『よし、交代だ。ご苦労だった』
野戦基地の入り口にたどり着くと、そこには交代する部隊が既に集まっていた。共に警備に当たっていた部隊も集まっていることから、自分たちが一番最後だったようだ。
『了解です。それでは私たちは』
ジルファーたち第32特務小隊たち、先に警備に当たっていた部隊は基地に引き返す。それと入れ替わるように別の部隊が偵察に出て行く。
『こんなクソ寒いところに居続けるのは性に合わん。俺はさっさと上がらせてもらうぜ』
「じゃあ、オレも。相棒が機嫌損ねてるんで」
ラベルトとグロリアスは早々に基地内へと引き揚げていく。
『あ、ちょっと、あんたら!まだ解散とは言っていない・・・』
ジルファーが通信をつなげようとするが、吹雪の勢いが一段と強まってきた。先程離脱して行ったはずなのに、もう無線が繋がらなくなっている。
『あぁ・・・、もう。ごめんなさい、協調性の無い連中ばかりで』
《いいって、いいって。彼等に俺達は随分助けてもらってるんだ。あいつには恩もあるしな。これくらいはいいよ》
共に偵察に当たっていたビームランチャーを装備したディメトロドン、ディメトロドンMKⅡのパイロットであるクラン=フォルスター少佐は、笑って許した。
実は、彼とは以前に共に作戦を行ったことがある。その時にいたジルファーの隊長は退役、他の隊員は既に死んでおり、環境、階級も変わっての、随分と久しぶりの対面だった。以前会ったときには、クラン少佐は死に掛けたが。
《しかし、あんたらはネオゼネバスのエース部隊になったんだな。俺とは随分な違いだ》
クランは自嘲気味に笑う。ジルファーとクランは、ほぼ同時期に少佐となり、クランは新たに部隊を受け持ち、ジルファーは隊長の退役で繰り上がりで隊長になった。
隊員たちの経験で言えば、クラン少佐の部隊はほとんどが新人、ジルファーの部隊は顔見知りの、経験のある手練がそろっている。スタートラインから違うのは明白だが、クランは決してそれを言い訳にはしない。それが、クランが隊員たちから好かれる理由でもあった。先程もクランは、『俺』と表現し、『俺たち』とは言っていない。あくまで『自分』の指揮能力不足だと言っているのだ。
『あなたが好かれて、慕われて、従うのも分かるわ。私もそうなりたいわね。あいつらはまだ、ね・・・』
《隣の芝は青いとはよく言ったもんだな。それじゃ、俺らも上がることにする。それでは、ジルファー少佐》
『はい、お疲れ様でした、クラン少佐』
ディメトロドンMKⅡに率いられるように、クランの部隊は一糸乱れぬ隊列を形成して基地の格納庫に撤退していく。その後ろ姿を見ながら、ジルファーも愛機、バーサークテュランZSを駆って基地の格納庫に引き返す。
『本当に指揮官に向いているのは、あの人なんでしょうね・・・』
少し自嘲気味の笑みを浮かべながら、ジルファーは引き返していった。
***
「っ・・・・・!!」
とある基地の研究施設の中。縦200メートル、横150メートルを壁に囲まれている。その中でゾイドのコクピットに座るパイロットの男は、ヘルメットのバイザー越しの目から、恐怖と驚きの入り混じった表情をしていた。
それもそのはずである。目の前には、膨大なENがENフィールドと思しき物体に止められている。
膨大なENは、荷電粒子砲だった。しかも、ジェノザウラー3台分の荷電粒子砲である。この、目の前に張られているENフィールドが無かったら、自分は今頃炭屑と化しているだろう。
しかしそれを防ぎ続けるこのENフィールド。ジェノザウラー3台分の荷電粒子砲を受けながら、まだ余力を残しているのだ。それもそのはず。この張られているENフィールドは、ネオゼネバス帝国が開発した新型ゾイド、『セイスモサウルス』に対抗するために開発されたものなのだから。
『集光パネル』。それを、へリック共和国、ガイロス帝国連合の技術陣は呼ぶ。
そしてそれを張り続ける、両足に火器のような物を装備した白色のT-REX型のゾイド。そのコクピットに座るパイロットに、通信が飛ぶ。
『これからジェノザウラーを離脱させる。その後、予定通り集光荷電粒子砲の発射テストを行う』
「了解です、所長」
パイロットの男は、ジェノザウラーが荷電粒子砲の照射を止めると、それを見計らってから集光パネルフィールドを解く。そして、脚部のアンカーを降ろし、ガイロス帝国の技術陣には見慣れた、へリック共和国の技術陣にはやっと目の前で見ることに慣れてきた、荷電粒子砲の発射体勢に入った。
そして、目視100メートルほど先に、Eシールド発生装置がリフターに乗って現れ、Eシールドを展開する。出力は、シールドライガー3台分となっていると話していた。
発射体勢に入り、T-REX型ゾイドの口腔部にENが集中していく。そして。
『EN充填完了。発射3秒前・・・3・・・2・・・1・・・発射!』
そして放たれる膨大なENの奔流。ジェノブレイカーの収束荷電粒子砲より太く、ジェノザウラーの荷電粒子砲よりも強力なENが一直線にEシールドに突き進む。
そして、Eシールドに着弾するENの奔流。
『着弾から5秒・・・・10秒・・・・15秒・・・・20秒経過しました。』
《よし、そこまでだ》
その言葉を聞いて、T-REX型ゾイドのパイロットは、荷電粒子砲を止めた。
そして目測上にあったEシールド発生装置は跡形も無く消し飛び、床も幅広く煤けている。
「砲身、異常なし。脚部フレーム、一部に異常あり。集光パネル、異常なし。EN残量、35%」
目の前のモニターに流れていく文字を呟いていくパイロット。そして、すべての文字の羅列が終わったとき、パイロットはヘルメットを脱いだ。
綺麗な銀髪。その銀髪は汗にぬれ湿っている。整った顔立ちだが、その表情にも疲れの色が出ている。
しかしその表情は、疲れの色こそ出ているものの、非常に晴れやかだった。今の戦闘テストの結果が、かなり満足のいくものだったからだろう。
《お疲れだった。戻ってきていいぞ、ライル》
「分かりました。所長」
そのT-REX型ゾイドのパイロット、ライル=リルフィード少佐は微笑を浮かべながらコクピットハッチを開いた。
「どうだった?ライル君。機体の調子は?」
顎に白い髭を蓄えた老人の男が、ライルに問う。この老人は、共和国技術陣の中核を担う技術者で、先程テストされたT-REX型ゾイドの研究所の所長である。
初面識では言葉遣いがどうのと言ってられない状況だったが、ここでは敬語で話をしている。
「どうもこうも、驚きですよ。あれだけの荷電粒子砲を受け止められるなんて・・・。さすがは、セイスモ用に開発された集光パネルですね。ただ、恐いことに変わりは無いですが」
あのENフィールドが何かの故障で弱くなりでもしたら、自分は一瞬で炭屑になる。その恐怖と戦いながら、先程は操縦桿を前に押し出していた。
あの恐怖は、超越できないだろう。普通の人間ならば。
「そうか。しかしそれはしょうがない。何せ、あれは盾だからな。それから、気になった点は無いか?」
「いえ、特には。操縦性を考えると、今が一番バランスが取れてますかね。個人的には各部の出力と反応速度の
向上お願いしたいところですが、そこは量産機なので、この程度が丁度いいかと」
淡々と、ライルは述べていく。それを聞きながら所長は、
「そうか」
一言言って、呼吸を置く。そして。
「では、今の状態での機体性能をベースに量産を開始しようと思う」
そこまで言って、所長は、
「あの試作一号機は契約通り君に渡す。後はどこをどうチューニングやカスタマイズしようと構わん」
「分かりました」
そこまで言って立ち去ろうとしたライルに、所長は思い出したように、
「そうだ。君以外の機体も一応修復、カスタマイズ共に終わっている。しかし、コマンドウルフのほうはまだしも、ケーニッヒにあんなカスタマイズする輩なぞ見たことも無い。特殊試験部隊で、様々な改造をするのはそれはそうだが、随分と邪道な道を選んだな、と思うぞ」
「それはあいつに言ってください。怒ると思いますけどね。それに、ああいう機体は自分の部隊にはいなかったんで、よくやってくれると思いますよ」
ライルは笑って返す。それに所長は、
「そうか。なら良いのだが。オプションの火器はまだ開発途中だ。完成次第送ることにするよ」
「わかりました。それでは」
そう言って去ろうとするライルに、所長は、
「そうだ、まだあった」と言って、引き止めた。
「・・・まだ何かあるんですか」
流石に若干不機嫌になりながらライルは対応する。
「機体の名前だが、考えたかね?」
「あぁ。まぁ、一応は。この紙に書いてます」
そう言って、紙を所長に手渡す。
「ふむ。なるほどな。この大陸にある『カンジ』というものを使うようにと言っていたが、その通りだな」
そこで一つ咳をすると、
「わかった。こいつは上に渡しておく。何度も引き止めてすまなかった。今日はご苦労だった」
「はい、ご苦労でした、所長」
そう言って、今度こそライルは所長の部屋から出て行った。
「・・・少し、寂しいな」
ライルが出て行って暫くして、主任がポツリと漏らす。
もう一度思い返してしまう。若き日に会い、自分と同じ銀髪をした息子と、孫のことを。
2度と、息子と孫はこの手に抱けないだろう。生きていれば成長しているだろうし、もしかしたら、もう・・・。
あのライルと言う男は、自分の息子や孫と同じ銀髪をしている。そのせいで、どうしてもライルと話していると若き日の息子や成長した孫と話している気分になってしまう。
だから、何度も引き止めてしまった。彼には、悪いことをしたと思う。
しかし、付き合って欲しいと思うのも、老いぼれの戯言だと思って聞いて欲しい。
「・・・あぁ、ここでそんなことを思っていてもどうにもなりゃせん」
そう言って、膨大な研究資料のある棚から、一つの資料を取り出す。
それを開き、そこに描かれている機体のスケッチに目を通す。
「・・・美しい。何度見ても、美しい。絶対にこの機体だけは、完成させてみせる。わしの威信にかけてもな・・・」
そう言って、天使のような翼を持つゾイドのスケッチと資料を、見つめ続ける。
「あのゾイドはT-REX型。やっと共和国にも出てきてくれた。完成すれば、この天使が、わしの願いをかなえてくれるはずだ・・・」
そう言って、資料を閉じて棚にしまった後、室内のベッドに横たわり、目を閉じた。
瞼の裏に、一度だけ見れた孫と、孫を産んだ息子、そして息子の嫁の笑顔が蘇った。
***
ZAC2107年3月初旬。ネオゼネバス軍の援軍が、メイズマシーン基地に到着する日が来た。
規模は戦闘ゾイド2個師団、キメラブロックスが1個師団ほどである。ネオゼネバス軍は人員による歩兵の運用を嫌い、キメラブロックスを大量生産し、歩兵として運用している。しかし、その生命体の論理に反するとされる存在と見た目の邪道さに好まないネオゼネバス兵も多数いると聞く。
そんなキメラブロックスと戦闘ゾイドが基地の格納庫に搬入されていく。その光景を、第32特務小隊のグロリアス以外の面々が、特にラベルトが、愚痴交じりに見つめていた。
「ったく、こんなのがいるから本土じゃ混乱が起きるんだ」
ラベルトもキメラブロックスの存在に疑問を持つ人間の一人だ。理由はいくつかある。
まず、一般論にあるように見た目の邪道さと、生命体の論理に反すると言う存在。それに加え、現在では爆薬を搭載させ、特攻機としての運用も検討され始めてると言う。しかしそれ以上にラベルトは、気に入らないことがある。
それは、ネオゼネバス帝国の本土である中央大陸の情勢だ。今現在ではネオゼネバス帝国軍が中央大陸を掌握している。しかしその中央大陸では、内戦が起きているのだ。しかも、第32特務小隊がクック要塞を奪還したときですら続いていて、今も続いている。
理由は、ネオゼネバス軍の家族、軍人が帰還したこと。それに相反するようにネオゼネバスが推し進めたキメラブロックスの運用と、それに伴う歩兵人員の削減、そして皇帝ヴォルフ=ムーロアが行った軍の縮小化による
軍人のリストラである。
ヴォルフ皇帝は戦争に苦しむ民衆達を解放する目的だったらしいが、大問題が発生した。難民と失業軍人が大量発生したのだ。失業軍人は難民に戦い方を教え、そして戦い方を覚えた難民や失業軍人達は盗賊となり、社会情勢を悪化させた。
それに拍車をかけたのが、キメラブロックスの普及で用済みとなった有人小型ゾイドが闇市場にそのまま流れたことである。これら流れたゾイドで盗賊は武装する。そしてさらにそれらを整備したり、盗賊たちに兵器を与える闇商人が出現した。治安は悪循環し、悪化の一途をたどる。
これらのことにより、ネオゼネバス帝国への不満が高まり、各地で反乱が起きるようになった。
そしてそれらの代表的なのが、ZAC2103年にトビチョフ市で起きた火族のネオゼネバスへの大規模な反乱である。
これは、キメラブロックスを暴徒の鎮圧に使用したのがそもそもの間違いであった。キメラブロックスは手加減無しに暴徒を攻撃し、それによりさらに火族の反乱の意識を逆撫でしたのだ。
結局その暴動は皇帝ヴォルフ=ムーロア自身による荷電粒子砲の一斉照射によって反乱軍全滅という形で終結している。このごろ、名君としてではなく暴君としての側面も垣間見るようになった皇帝だが、どうなるのであろうか。
更には、火族や地底族がその反乱で離脱し、バーサークフューラーやダークスパイナーを強奪し、へリックやガイロスに提供したりもし始めたのだ。
皇帝ヴォルフ=ムーロアは人命を最優先するためにキメラブロックスなどを運用している。しかし、キメラブロックスの普及により、そのような事件や内戦が引き起こっていると言うのを皇帝は理解しているのだろうか。
ここまでが、ラベルトの考えている、反キメラブロックス論である。ラベルトは何より、国内で内戦がおきていて、ネオゼネバスが混乱していることが気に食わない。こんな事をしていては戦争に集中できるはずも無い。
ましてや、中央大陸や世界を平和に出来ようはずも無い。そうラベルトは考えている。
ちなみに今現在中央大陸の情勢をもう少し言えば、ネオゼネバス上層部は、イグアンの後継機である新型小型ゾイド、「ネオ・イグアン」を治安部隊に普及させ、トビチョフ市の惨劇を起こさないように尽力している。しかし、この機体の存在が知れ渡るや否や、ネオゼネバス兵はこの機体に搭乗したいという意見がとてつもなく多くなっているのだ。
上層部はそこに目をつけた。この機体を量産させて戦線に送り出し、ネオゼネバス兵に搭乗させる。それにより、戦線での士気を向上させている。また、失業軍人などを雇って治安部隊に編入、この機体に搭乗させ、失業
軍人を一時的に減らし、盗賊たちを逮捕させることで治安の良化を測っている。現在ではその甲斐あってか、若
干中央大陸の情勢は落ち着きをみせ始めている。
「あんたはそう言ってもね、それはあんたが政治家になるか、皇帝の側近になんないと通らないわよ。軍人は上の命令どおりに動く。そこに反論は許されない。そうでしょ?」
ジルファーがやや意地悪そうにラベルトに言う。ジルファーはキメラブロックスに肯定的な意見の方だ。今ではロードゲイルやディアントラーが開発され、最初から配備されていたダークスパイナーと合わせて統率できるようになっている。以前は報告されていた今では自立プログラムを侵食して暴走したという事例はあまり聞かない。
そうならば、キメラブロックスは理想的だ。こちらの兵士を使わず、敵の戦闘ゾイドを削ることが出来る。今でこそ、その数で圧倒するという有効性は薄れつつあるが、皇帝の「人命」を優先するのには理想的な兵器だと言える。
「でも、生命体の、『命』の観点から見れば、おかしいのは分かんだろ」
「それに関しては、否定しないけどね・・・」
そう言われては、ジルファーは有効な言い返しが出来ない。
そもそもキメラではなく、ブロックスという存在に疑問を抱いている者は、一部の軍人だけではない。惑星Ziにも存在している動物愛護団体―――彼等は野生ゾイドを戦闘ゾイドに改造することも、当然批判している―――、西方大陸の住民の大多数、そしてその考えを西方大陸に布教させたと言われる神族の人間などである。
「まぁ、神族の人間なんて見たことも無いから、どう考えているかは分からんけどな」
「確かに、そうね」
「・・・では、俺から説明しましょう」
ジルファーとラベルト、そして口を開かずに話を聞いていたリンが、ギョッとして振り返ると、そこには軍服の上に黒いコートを着込んだグロリアスがいた。
「・・・あんた、いつからそこにいたの?」
「たった今です」
相変わらずのそっけない様子でグロリアスは応じる。
「そうなのか。じゃあ、説明してくれよ。神族とかがどういう考えを持っているのか」
「分かりました」
そして、グロリアスは淡々と話し始める。
「まず、神族はゾイドを神獣として崇めている、と言います。神族は昔からゾイドと共存してきたようです。そして、神族の秘境には、多くの恐竜型ゾイドが生息していました。レッドホーンやゴルドス、ゴジュラスなどの野生体です。ここまではご存知でしょうか」
ジルファーたちは頷く。昔から今でも第一線で活躍し続けるゾイド達であるため、この惑星の歴史を読んでいれば、知らない物人間はごく僅かだろう。
「彼等は、それらの強力無比な恐竜型ゾイドを侵略には用いませんでした。自衛のためだけに用いていたようで
す。風族は公にしていませんが、どうやら風族は神族を支配しようとしたようです。しかし、風族は敗走しました。いくら風族の物量でも、風族の小型の狼型ゾイドでは恐竜型ゾイドに太刀打ちできなかったようです。しかしそれほどの力を持ちながら、侵略したと言う記述はありません。風族が逆恨みして悪い噂を流布した事もあったようですが、そもそも神族は人前に出てこないため、そんな噂はすぐに立ち消えました」
ここまでいいですか、と言う感じで全員の顔を見るグロリアス。
全員がその様子に頷くと、
「では、続けます。彼等はゾイドを生命として、そして御神体として、とても大事にしていた。そのため、あの神族の秘境が発見され、恐竜型ゾイドをゼネバス、へリックが、特にへリックが持ち出すようになると、いい顔をするわけが無かった。反対しようとしたけども、既にゾイドは戦闘機械獣として改造されていた。神族はなすすべも無く、その秘境を明け渡したようです。神族は、野生ゾイドを戦闘ゾイドに改造することを非常にタブー視しているようです。野性ゾイド改造することは、神への侮辱、と捉えられるのでしょう。」
ここで一呼吸置くグロリアス。そして、また話し始める。
「そんな彼等が、人工的に製作し、生み出したブロックスゾイドを認めるわけが無い、と自分は考えます。東方大陸の人間は、ある意味では自分達の崇拝する神を作り出したと言えるのですからね」
ただ、とグロリアスは続ける。
「相反するというか、矛盾することですが、彼等はもしかしたらブロックスゾイドを認めている可能性もあります。そうして人工的に作り出したゾイドは自分達の信仰するゾイドとは違うと考え、ブロックスゾイドの存在を認めてしまうのではないか、とも思います。ここまでが、自分の考えです」
そこまで聞いて、3人とも驚いた。部隊の中で一番若い、まだ年齢的にも外見的にも少年と思われるような男がここまで勉強していたとは。
その時、ジルファーが口を開いた。
「あんた、随分詳しいのね。もしかして、神族・・・とか?」
その瞬間、表情こそ変わらなかったがグロリアスの雰囲気が変わった、ような気がした。
「いいえ、違いますよ」
表情も口調も変えずにグロリアスは言った。
「そう」
一方のジルファーはそれ以上追求しなかった。
「お~い、そこのあんたら、搬入作業の邪魔だ。どいてくれ」
整理の兵士が立ち話をしていた第32特務小隊の面々に声をかける。
「そうね。私達は今ここにいるべきではないわ。戻りましょう」
そう言われて、ジルファーはさっさと基地の中に戻ろうとする。それにグロリアスが続き、リン、ラベルトはその後だった。
「なぁ、さっきのって、やっぱり・・・」
「だと、思いますね」
ひそひそ話をしながらラベルトとリンは基地に戻る。
しかし、勘のいいグロリアスが、それに気付かないわけはなかった。