4月から健康被害救済制度もこれだけ変わる コロナワクチン無料接種終了で

4月から健康被害救済制度もこれだけ変わる コロナワクチン無料接種終了で   

新型コロナワクチンの「特例臨時接種」が終了することで、健康被害が生じた場合の救済制度の取り扱いが大きく変わるが、ほとんど周知されていない。何がどのように変わるのか、解説した。 
 楊井人文  2024.03.29  
 
2021年から続けられてきた新型コロナワクチン接種の全額公費負担が今月で終了します。4月からは高齢者を対象とした定期接種に移行し、原則有料となります。高齢者以外は、予防接種法に基づかない接種(いわゆる任意接種)として自己負担で接種可能となります。   

これにより、4月以降に接種して、万が一、健康被害が生じた場合に備え、救済措置として設けられている「健康被害救済制度」の扱い、支給条件や支給額も、大きく変わります。ところが、この点は、厚労省のサイトやパンフレット等では全く周知されていません。メディアの報道も皆無ですので、従来と何がどのように変わるのか、ほぼ全くといっていいほど知られていないでしょう。   

予防接種の法制度は大変ややこしく、「任意接種」や「努力義務」といった一般の人が誤解しやすい用語も使われてきました。この機会に、そうした用語の正しい意味も含めて、わかりやすく整理して解説します。   

<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/001182016.pdf">厚生労働省のリーフレット</a>より 
厚生労働省のリーフレットより
 
 予防接種の類型 コロナワクチンはどう変わる?  
 
まず、現在の法制度上の予防接種の位置付け、類型を確認しておきましょう。 
 
主なものを分類すると次のようになります。 
 厚生労働省の資料などに基づき、筆者作成(<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000550939.pdf">参考資料</a>) 
厚生労働省の資料などに基づき、筆者作成(参考資料)
 
新型コロナワクチンは、従来「臨時接種」と似た「特例臨時接種」に位置付けられていました。違いは「臨時接種」が自治体主導であるのに対し、「特例臨時接種」は国がより主導的役割を持つ枠組みになってる点です。「特例臨時接種」では、実施費用を国が全額負担とし、厚生労働大臣が自治体に指示を出せるようになっていました。 
 
上の図に書いたように、定期接種(A類)と臨時接種は、社会防衛(まん延防止)に比重が置かれ、それ以外は個人防衛(重症化予防)に比重が置かれているとされています。 
 
コロナワクチンは従来の「特例臨時接種」から、4月以降、65歳以上は「定期接種(B類)」、65歳未満は「いわゆる任意接種」に移行することになります。それに伴い、定期接種(B類)に関する健康被害は引き続き国の制度が適用される一方、任意接種はPMDAが救済業務を担うことになります。 
 

「任意接種」「努力義務」まぎらわしい用語に注意  
   
ここで「任意接種」という用語について、簡単に解説しておきます。これは厚生労働省が使っている行政用語ですが、正式な法律用語ではなく、制度に詳しくない一般国民には誤解を招きやすい表現であるため、ここでは「いわゆる任意接種」と表記しています。というのも、どの類型の予防接種であっても、「いわゆる努力義務」があろうとなかろうと、接種するかどうかを最終判断するのは各個人であり、いかなる個人も接種を強制されることは認められていないからです。つまり、すべての予防接種が、言葉の通常の意味における「任意接種」といえます。 
 
厚労省が使っている「任意接種」という用語は、「個人が任意で接種するかどうか判断する」という意味の「任意」ではなく、「予防接種法に基づかない接種」という意味にすぎないことに注意が必要です。本来、予防接種法に基づく接種を「法定接種」、予防接種法に基づかない接種を「法定外接種」と呼んだ方が分かりやすいと個人的に考えていますが、現状は「任意接種」という用語が厚生労働行政で使われているため、ここでは「いわゆる任意接種」と表記しています。 
 
日本にはかつて、法律上、罰則付きの「接種義務」がある時代もありましたが、現在はそうした「接種義務」はありません(1994年から義務規定廃止。厚労省の資料参照)。代わりに「接種を受けるよう努めなければならない」という規定があり、「定期接種(A類)」や「臨時接種」に適用されます。これが「努力義務」規定と呼ばれているものです。 
 
ただ、この「努力義務」は、法律上の「義務」とは性質が全く異なります。法律上の「義務」規定は従わないと「違法」と評価されますが、「努力義務」規定は従わなくても「合法」であり、「違法」と評価されることはない、という点で異なるのです。(他の法律でも所々、「努力義務」規定はありますが、例えば、自転車のヘルメット着用は現在「努力義務」規定となっています。道路交通法63条の11)。 
 

4月からこう変わる 健康被害救済制度の取扱い変更  
 
コロナワクチンの制度的位置付けが変更されるに伴い、万が一、接種によって健康被害が生じた場合の健康被害救済制度の取り扱いも変わります。 
 
これも主なポイントを、以下の図にまとめました(なお、「4月から」の意味は、4月1日以降にコロナワクチンを接種した場合に適用されるという意味です。3月31日までに接種し、健康被害が4月以降に生じた場合は、あくまで「3月まで」の制度が適用されます)。 

まず、入通院治療の費用や、医療手当(入通院期間に応じた定額の給付)ですが、従来は、入院が必要でないレベルの治療も対象でしたが、4月以降は入院が必要なレベルの治療のみが対象になります。つまり、入院を伴わない通院治療は、原則として自己負担となります。   

亡くなった場合は、従来は4530万円の「死亡一時金」が支払われましたが、4月以降は約754万円の「遺族一時金」と年額約251万円の「遺族年金」(最長10年間)が支払われる形に変更されます。つまり4月以降、遺族が受け取れる満額は約3200万円となり、「死亡一時金」より減ります。   

支払対象も「死亡一時金」や「遺族一時金」は配偶者、生計が同一の遺族(複数の遺族がいる場合は按分)ですが、「遺族年金」は亡くなった人によって生計を維持していた遺族だけが対象です。つまり、例えば、接種によって親を亡くした場合、その親によって生計を維持していた子は遺族年金の対象になりますが、その親から独立して生計を営んでいた子や、逆に親を扶助していた子は遺族年金の対象になりません。その場合は、約754万円の「遺族一時金」のみとなります。   

葬祭料は、4月以前も以後も同じ額で、21万2000円となっています(実際に葬祭を行った場合にそれを負担した人が請求できるもので、遺族とは限りません)。 
 
後遺障害が残った場合に支給される「障害年金」(18歳以上)は、従来より1級・2級の支給額が減り、3級は支給対象外になります。18歳未満の「障害児養育年金」も、同様に、従来より1級・2級の支給額が減り、3級は支給対象外になります(18歳未満の接種者は、4月以降、いわゆる任意接種になるため、障害児養育年金は「医薬品医療機器総合機構」(PMDA)による健康被害救済制度が適用されます)。後遺障害の「1級」「2級」「3級」がどういう症状を意味するかは、予防接種法施行令別表第一をご覧ください。   

さらに、請求期限にも違いがあります。3月までの接種では請求期限がありませんでしたが、4月以降は次のような期限が設けられます。 
 
•医療費:当該医療費の支給の対象となる費用の支払が行われた時から5年

•医療手当:医療が行われた日の属する月の翌月の初日から5年

•遺族年金、遺族一時金、葬祭料:死亡の時から5年(ただし、医療費、医療手当又は障害年金の支給の決定があった場合には2年)

 
先ほど説明したように、予防接種の健康被害救済は、定期接種B類の対象者(原則65歳以上)は国(厚労省)の制度が適用され、それ以外のいわゆる任意接種の対象者(原則65歳未満)はPMDAの制度が適用されることになっていますが、いずれも給付の種類・項目や、支給額は同じです。 
 
詳しくは、下記の厚生労働省、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のページで確認できます。 
 
65歳以上(定期接種B類の対象者)
▶︎ 健康被害救済制度(厚生労働省) 
 
65歳未満(定期接種B類の対象者以外、いわゆる任意接種)
▶︎ 医薬品副作用被害救済制度(医薬品医療機器総合機構) 
 
以上の解説が参考になれば幸いです。