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その結果、報告書の内容は、客観的な事実と照らし合わせると、いくつもの不可解な点が残っています。 |
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これから、それらを12の問題点に整理して、具体的に指摘していきます。少し長くなりますので、スライドで問題点を一覧できるようにしました。 |
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1回目は「取材過程」について、2回目は「編集・制作過程」について、詳しく検証します。 |
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(6月11日配信済みサポートメンバー限定記事も参照) |
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(3)取材過程の疑問点 |
❶ 担当職員Mは本当に感染死遺族の紹介を期待していたのか? |
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→ そのような依頼をした形跡はない。取材申込メールには、ワクチン被害に関する報道がほぼ皆無の状況を念頭においたとみられる表現があるが、それについての見解も示されていない。 |
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報告書では、取材・映像編集を担当した職員M(14日間の出勤停止処分)へのヒアリングにおいて、Mが、新型コロナの5類移行を受けて「いまも残る悲しみの声を伝えるという意味で、遺族の取材を思いついた」と説明し、ワクチン被害遺族を支援するNPO法人「駆け込み寺2020」に取材を申しんだ理由については「ワクチン接種後に亡くなった方の遺族であっても、広い意味でコロナ禍で家族を亡くした遺族に変わりはないと考えた」「新型コロナに感染して亡くなった人の遺族を紹介してもらえる可能性もあると思った」と説明した、としています。 |
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しかし、Mが「コロナに感染して亡くなった人」の遺族を探し求めたという形跡は、どこにも出てきません。取材申込メールにも、その後のやりとりでも、Mが一度でも「コロナに感染して亡くなった人」の遺族も紹介してほしい、という趣旨の打診をしたことはないのです。 |
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報告書では、Mが、駆け込み寺2020が「ワクチン被害を訴える遺族が参加している団体」だという認識をもって取材申込みをしたことを認めています。この取材申込の文面には、こんな表現が出てきます。 |
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あった事がなかった事のようにされ忘れられていくのではないか、
数えきれない嘆きの声が埋もれていくのではないか。
そして我々の報道の姿勢としてもこのままで良いのか。
歴史的にも非常に重要な意味を帯びるタイミングが現在であるとすら考えるのですが、
自分ではなかなか答えに辿りつけず、
それでも番組でもどうにか取りあげて提起したい狙いから
厚労省や自治体にも取材をすすめていたところ、
鵜川さまの活動に辿り着くことができました。
担当職員Mがに駆け込み寺2020宛てに送った取材申込メッセージ(5月10日) |
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この「あった事がなかった事のように」とか「我々の報道の姿勢としてもこのままで良いのか」とか「番組でもどうにか取りあげて提起したい狙い」といった表現も、連日の夥しい量で報道されていたコロナ感染のことではなく、ワクチン被害に関する報道が皆無に等しい状況であったことを念頭に置いたものとみるのが自然でしょう。 |
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しかも、続けて、 |
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求めは長年活動されてきた鵜川さまのご意見をぜひ賜れないか、そしてご遺族の声を後年に残すことができないか、取材のご相談であります。
同上 |
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と鵜川氏のコメントも求めていたのです。 |
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しかし、報告書はこうした文面について、何も語っていません。 |
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問題解明のためには、残された客観的な証拠の検証から始めるのが常道です。にもかかわらず、NHKの報告書は、取材申込メールをきちんと検証せずに、問題発覚後に行ったMへの「ヒアリング」にばかり依拠しているのです。 |
❷ 「提案票」を見た上司3人は、当初からワクチンの被害を訴える遺族が取材対象だと認識していたのではないか? |
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→ 報告書は上司らに明確な認識があったかどうか明確にしていない |
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報告書では、Mが取材申込をした当日に、提案票(企画書)と絵コンテを、編集責任者(減給処分)を含む上司3人に送り、提案票の映像項目に「コロナワクチンで夫を亡くした遺族インタ/ワクチン被害者の会」という記載があったことも明らかにしています。 |
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一方で、絵コンテに「仏壇の前にて、コロナウイルスで夫を亡くした女性」という記載もあったことから、この矛盾をもって、Mが「みずからの認識のなかで、ワクチン接種後に亡くなった人と、新型コロナに感染して亡くなった人を明確に区別していなかったことがわかります」と決めつけています。これは意味不明です。 |
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絵コンテの記載はMの書き間違いである可能性もあるのに、きちんと確認した形跡がありません。 |
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さらに問題なのは、提案票・絵コンテを受け取った上司3人が、取材対象として「コロナワクチンで夫を亡くした遺族」を予定していたことを認識していたかどうか明らかにしていない点です。 |
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報告書の後半で、試写の段階で上司のチーフリード(14日間の出勤停止処分)がワクチン被害を訴える遺族だとようやく認識したかのような記述もあり、それまで上司3人がそろって認識がなかったかのようにも読めますが、にわかに信じがたい話です。Mは取材経験が十分にない職員だったのですから、慎重にチェックするはずです。 |
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報告書は、上司3人の認識について曖昧にしているのです。 |
❸ 報告書はなぜ、「取材要項」に一切触れていなかったのか? |
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Mは取材申込翌日の5月10日、団体代表の鵜川氏と初めて電話連絡をとった後に「取材要項」をメールで送っています。報告書はこれにも全く触れていません。 |
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ここには「取材の狙い」として「決して忘れてはいけない」 「フタをされてしまうことを断じて看過してはならない」という表現が出てきます。コロナ感染死の遺族を取材するのに わざわざ「フタをされてしまうことを断じて看過してはならない」などという表現を使うでしょうか。これも、先ほどと同様、ワクチン被害に関する報道が皆無に等しい状況であったことを念頭に置いたものとみるのが自然ではないかと思われます。 |
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そして「代表の鵜川さまに、ご遺族をつなぎ証言を残す意義などを伺う」と、当初の取材申込と同様に、鵜川氏への取材予定も盛り込まれていたのです。 |
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NHKの報告書が取材申込メールにはほとんど触れず、この「取材要項」に至っては全く言及していないのは、Mが当初からワクチン被害を訴える遺族を取り上げる意図を明確にもっていたと理解されることを避けたいからではないかと疑ってしまうのです。 |
❹ Mが取材当日にワクチン接種後の死亡者の遺族だと「はっきり認識した」とはどういうことか? |
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→ NHK幹部の国会答弁と辻褄をあわせるための、不自然な聴取内容ではないか? |
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報告書は、Mが、取材対象の遺族3人がワクチン接種後に亡くなった人の遺族かどうか事前に確認せず、取材当日に説明を受けて「はっきり認識した」とヒアリングに答えたと記されています。 |
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一方で、Mが取材前に知り合いの記者に「ワクチンで家族を亡くした人に話を聞けそうです」と伝え、アドバイスを求めていたという事実も明らかにしています。 |
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この「はっきり認識した」というヒアリングの供述をあえて載せた理由として考えられるのが、報告書公表の約2ヶ月前になされた「取材の過程でワクチン接種後に亡くなった方のご遺族だと認識した」というNHK専務理事の国会答弁です。私は、この答弁と辻褄をあわせるために、わざわざ「はっきり認識した」というMの供述を報告書に盛り込んだ可能性が高いと推測しています。これを盛り込めば、もともと認識はあったが、具体的な事実を明確に認識したのは取材当日であるという趣旨で国会答弁をしたという説明ができるからです。 |
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❺ 報告書はなぜ、取材当日、Mがワクチンについて質問し、被害の訴えを受け「皆さんの声を正しく、騙さず伝える」と語っていた事実を無視したのか |
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報告書では、取材当日の内容はごく簡単にしか触れられていません。 |
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遺族へのインタビューのなかで、担当職員は『コロナが過去の出来事になることをどう思いますか」などと質問しましたが、3人の話は、大半がワクチンに関することでした。
NHKの報告書より |
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しかし、Mはインタビューの中で「率直にいってワクチンというものに対して今どういった感情をお持ちですか」という質問も投げかけていました(取材映像YouTube、17:50〜)。 |
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さらに、遺族がワクチン被害の訴えを念頭に「都合の悪いことは放送しない」などとメディアの報道のあり方について疑問を提起した後、「フタにされてしまうことに抗うためにも、何ができるかって思ったときに、できることは、こうやって皆さんの声を正しく、騙さず伝えることじゃないかと」と語っていたのです(同YouTube、30:36〜)。 |
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こうした発言を聞く限り、Mにはワクチン被害についてもVTRで触れたいという考えを持っていた可能性はあると思われます。 |
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ところが、報告書はこうした発言に言及することなく、代わりにMがヒアリングで「1分の動画のなかでは、ワクチンのことまで触れるのは難しいと考えていた」と話したことを記載していました。 |
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また、報告書は、Mがインタビューに先立ち、「今回はワクチンの是非や咎を問うということではなく、5類移行1週間で街に喜びやにぎわいが戻ってくる中で、再びコロナ禍に後戻りしないよう、家族を亡くした遺族の方の声をお伝えしたいという趣旨」を遺族らに説明したと記しています。 |
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ただ、この「趣旨」と遺族の訴えは、必ずしも矛盾しないでしょう。ワクチンの是非や咎を問わなくても、被害の実情や訴えを伝えることは可能だからです。 |
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結局、Mが取材当日の時点で、ワクチンに関しては一切盛り込む考えがなかったのか定かでありません。これは、きちんと検証されるべき重要なポイントだと思います。 |
❻ 報告書はなぜ、支援団体を紹介するという約束に触れていなかったのか? |
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報告書には、取材の後、Mが鵜川氏に対し「多くの方が長尺のものを期待されているように見受けられ、『たった1分か』『ワクチンに触れていない』となると、せっかく期待された皆さまががっかりされてしまう気がして、それは決して本意ではないことをお伝えしたいのです」という内容のメールを送ったことが記されています。 |
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これは事実です。放送前日の5月14日、そうしたメールが送られています。ですが、その直前にあった重要な記述が省略されていました。 |
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一つだけご相談です。
明日に関してはまだ入口として5類移行1週間の文脈で1分であること、
そして今後も継続的に放送に臨むことを、
もし叶うなら放送前に鵜川さんの方からも宣伝、周知をお伝え願えませんでしょうか?
Mが鵜川氏に送ったメール(5月14日)より |
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こうして事前宣伝を鵜川氏に頼んだという事実は、Mがワクチン接種後に亡くなった人の遺族のインタビュー映像を流す予定であることの周知を望んでいたことを示すものといえます。ワクチン被害者支援団体の代表である鵜川氏が周知すれば、そのように伝わることは明らかだからです。 |
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また、Mはロケ取材の前「またせっかくのご縁ですから今後も継続的に取材をさせていただければと思っております」「明後日の1回目はまだ1分しかなく、これで決して終わりでない事も改めてご説明したいと考えています」とメールしていました。取材の後も「1分、或いは一度二度の放送では、皆さまに報い切ることはできないとも考えています」と、継続的な取材報道の意向を繰り返し伝えていました。これもMがワクチン被害に関する継続的な報道の意思をもっていたことを示唆するものですが、報告書には一切出てきません。 |
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そうした中でも特に重要なのが、支援団体「駆け込み寺2020」の案内について約束していたことだと思います。これも報告書では触れられていなかった事実です。 |
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そもそも鵜川氏は団体の紹介を取材を受ける前提条件として提示し、了解が得られたため協力を進めたといいます。メールのやりとりでもその点の確認をしており、Mは「案内も必ず入れさせて下さい!」と応じていました(5月14日メール)。 |
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ところが、放送の約3時間前になって「今回に関してはリンクは貼れなくなってしまいました、、申し訳ありません」と連絡があり、鵜川氏の反応がないまま、団体名の表示なしの放送となったわけです。 |
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当初約束されていた団体名の表示がなかったことは、遺族側が大きく失望した重要な理由だと聞いています。こうした約束の反故は、看過せずにきちんと検証されるべき問題であり、NHK報告書の重大な欠陥の一つと言っていいと思われます。 |
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(後半の第2回は、映像編集編をお送りします) |