石垣島で暮らしていた頃のことだ。

居酒屋の寮で、何人かの仲間と一緒に暮らしていた。みんなと仲良く、楽しく過ごしていたはずなのに、あるときから、頭の中が妙に騒がしくなった。

人と一緒に暮らしていると、いろんな人の考えが入ってくる。

あの人はこう言う。 この人はこう考える。

いつの間にか、自分の考えなのか、人から聞いた考えなのか、わからなくなっていた。

私は、ひとりになりたくなった。

頭の中を、すっきりさせたかった。

そして、物もいらないと思った。

仕事も住まいも何もかも。

海辺でキャンプをすることにした。

一ヶ月近く、海のそばで暮らした。

持っていたのは、リュックひとつ。 三線と、スケッチブック。

それだけだった。

不思議なことに、それで困らなかった。

満点の星空と波の音だけで幸せだった。

何にもいらない。

「私は、何がしたいんだろう」

「何を大切にして生きたいんだろう」

海を眺めながら、そんなことを考えていた。

物が少なくなると、心の中にあったものが、少しずつ見えてきた。

そして、ひとつの思いにたどり着いた。

好きな人を支えたい。

その思いが、自分の中でひとつの目標になった。

すると今度は、不思議なくらい、必要なものが見えてきた。

家がいる。 仕事がいる。 そのためのお金もいる。

何もいらないと思っていた私の前に、今度は「欲しいもの」がひとつずつ現れてきて、あっという間に手に入った。まるで空から降ってくるように。

それらは、物欲から欲しくなったものではなかった。

自分が何をしたいのかが分かったから、必要になったものだった。

あの頃は、まだ「断捨離」という言葉はなかった。

でも私は、たぶん、自分の中で断捨離をしていたのだと思う。

物を捨てたかったのではない。

人の考えをいったん手放して、 自分の心に積もったものを降ろして、 本当に大切なものを探していた。

そして、何もいらないところまで行ったからこそ、私は、自分が本当に欲しいものを知った。

結局その人と結ばれることはなかった。

その人は鏡になってくれた。

その人を支えたい、それは、自分を支えたいということ

見失った自分を大切に生きることになった

欲しかったのは、失った自分自身だったのだと気づく