Milton Nascimento/Travessia 1967年作
記念すべきミルトン先生の一作目。
66年にエリスレジーナがミルトンの曲”塩の歌”を取り上げたことで初めて音楽業界にその名が
知れたが、その翌年の国際歌謡祭でミルトンが作曲した3曲がノミネートされ2位を獲得すると
一躍有名人となりその後大躍進を遂げることになる。
この国際歌謡祭に外国の来賓として出席していたのがCTI総裁のクリードテイラ―で、
感銘を受けたクリードテイラ―はこのあとすぐにミルトンとアルバム作成の契約を結んだという。
契約後しばらくして69年に渡米しアルバムを作成し世界デビュー盤としてコーリッジがリリース
されるが、MPB世代の世界進出としては誰よりも早かった(と思う)。
で、このコーリッジの前に自国ブラジルでアルバムを作成しようという機運が高まり、マイナー
レーベルのコデルからリリースされたのが本作でデビュー作。
アレンジはルイスエサが手掛けバックもタンバトリオ(この時はタンバ4か?)が執っている。ストリング
アレンジはデオダートが担当していて、クリードテイラ―との間を取り持ったのも彼らしい。
曲目はコーリッジとダブる曲が多く、一曲目は同じく屈指の名曲トラヴェシアで幕を開ける。
次いでトレスポンタス(ミルトンが育った街)そしてクレンサ、塩の歌やミルトンお気に入りのモーホ
ヴェーリョ等々、どの曲も初期のミルトンを代表する曲ばかりが並んでいるが、アレンジはルイスエサが
担当してるから当たり前っちゃ当たり前だけどタンバトリオ的、ジャズボッサを踏襲したところにある。
独特の浮遊感は街角クラブまで待たなきゃならない。
しかしこのアルバムはこの先続くミルトンの長い長い音楽の旅の出発点であり、世界という大海原に
乗り出したばかり。トラヴェシア(航海)というタイトルは実に暗示的で象徴的だよね。
(厳密にはトラヴェシアは大陸や海を横断あるいは縦断するという意味になる)
ただまあ、個人的にあまり思い入れのあるアルバムじゃないっていう。。。
90年代中~後半、初めて聞いたミルトンがクルビダエスキーナ。
次いでコーリッジとミナス。それからしばらく間があいて76年のミルトン。
ここらへんはほんと思い入れが強い。
あと88年のミルトンスも割と早かったかな。
とにかく当時は日本盤(次いでUS盤)が出ていれば手にとりやすかった。
このアルバムがCD化されたのは2000年を越えてからだから大分後になってから聴いた。
69年のミルトンナシメントや70年のミルトンもだけど、初期作品のCD化(日本盤)が2000年以降で
なかなか触れる機会に恵まれなかったのよ。
あとどうでもいい話、ミルトンのアルバムは同じタイトルや似たタイトルが多いから紛らわしい。
*
今日は趣向を変えてUS盤のコーリッジも加え聴き比べ。
一曲目、屈指の名曲トラヴェシア。
AM7add9→E7sus4のイントロは印象的。よく練習したもんです。
コーリッジ盤は英語詩でタイトルもブリッジと改名されてる。
今はどうか知らないけど、これに限らず当時は英語じゃないと売れない、という理由から
英語で歌う事を半ば強要されてたんだよね。
カタヴェント。
モーホヴェーリョ。
洗練度でいったらCTI(コーリッジ)に軍配が上がるんだろうな。
ただ本作の方が野趣(?)に富んでると言えるかも知れない。たぶん。おそらく。。。
最近ようやくミルトンの評伝を手に入れた。
結構前に予約してたんだけどね。一緒に注文したCDが全然揃わなくてやっと今頃。
目下拝読中だけど結構厚くボリュームがあって読み応えがある。あと段組みになってるから読み易い。
養父母であるジョジーニョとリリアの出自やなれ初めから始まって、幼くして結核で母を亡くした
私生児のビトゥーカ(ミルトンの愛称)を迎え入れるとことからミルトンの物語が始まる。
へーって思う話も結構あんのよ。たとえばトラヴェシアのイントロを作ったのはデオダートだとか。
個人的に余計なオーケストレーションしやがってとやや憎々しく思ってたのにいい仕事してますね。
あと、クルビダエスキーナはミルトンの鼻歌にローボルジェスがギターでコードを付け、それを隣で
聴いていた兄の丸塩、、、もといマルシオが急遽歌詞をあてたエピソードとか。
クルビダエスキーナ2はローの作曲だけど、クルビダエスキーナ自体もローが深く携わってたんだな。
あとはノンポリのはずのミルトンも軍政府の規制や嫌がらせに苦しんでたり、、、とかとか。
まだ半分も言ってないからアレだけどかなり興味深く読める。
ミルトン好きにはお勧めしたい、、、が、個人名がバンバン出てくるからミルトンしか知らない人や
ブラジル音楽にまったく明るくない人にはきつい部分はあるかも。
ただブラジル音楽好きや街角クラブ周辺に興味のある方だったら間違いなく楽しめる。