イチモンジタナゴを人工授精で継代繁殖させている方とお話した時のこと。




どうも生まれてくる子の体型が丸いと。




養殖の世界では体型異常が出るのは常識ではありますが、観賞魚で奇形の累代を改善しないのはどうなんだという話になり元の姿に戻せるか協力することになりました。

 






人間の記憶は当てにならないのでとりあえず記録から元の姿を確認します。







野生個体 ペア

 

 

画像上のオスは性成熟後体型が変化していると仮定します。
画像下のメスがこの個体群では非繁殖期の一般的な体型。






オス

 

 

野生下では吻部のやや丸いオスもいれば






メス

 

 

吻部の尖ったメスもいる




野生下でも表現は一様ではない事が分かります。
多少吻部が丸い個体でも生き残り代を繋いでいるようです。
ショートボディー個体や養殖アユ・ニジマスに見られる頭部が潰れて下顎が出ているような個体はいなかったので、そういう一目で奇形と判る個体は野生下では淘汰されているようです。

 

 

 

 

次に野生個体を飼育下に置くと体型が変化するか確認しました。
適切な飼育環境に置かれていない場合、徐々に後天的奇形が起こる事がありますからね。
 

(例 過密飼育・生息地と合わない水温・水流・本来の食性と合わない餌・混泳する種類等)
 

 


 

野生個体 飼育下

吻の尖った個体

 


 

 

 

 

 

 

吻の丸い個体

 


 

ズナガニゴイやカマツカ等は飼育下で吻が徐々に丸くなるケースがあります。
イチモンジタナゴで同様の現象が起こるか寿命まで長期飼育してみましたが変化はありませんでした。
長期間飼育しても吻部が最初から尖った個体はそのまま、丸い個体も変化は無し。

 

 

 

 

話を最初に戻しましょう。

上記の個体群を人工授精で殖やした方から2~4世代目は吻が丸く体が小さくなると聞きました。



考えられる要因としては



●人工授精後の発生に問題がある

●奇形個体を親に使い体型異常が固定されている




2つの点を考慮し野生個体と同じ顔・同じサイズに戻せるか実験しました。




まず人工授精5世代目の浮上後数日経過した個体を受け取ります。






浮上後数日経過した個体 全長約7mm

 

 

 

この段階では体型異常は判別できません。







飼育18日目  全長約10mm

 


 

体に厚みが出てきました。
このくらいになると体型が判別できるようになります。
画像では右端の個体は頭部が丸いのが確認できます。





1匹ずつ確認してみましょう。





正常個体

 


 

 

 

 

 

頭部不形成個体

 



 

 

 

 

尾鰭下部不形成個体

 

 

頭部と尾鰭下部不形成個体は遺伝というより発生中のスレが要因と思われます。
全体の2割程度の発現なので奇形の固定化まではいかないでしょう。





ここから同じ環境で成長させ体型に変化があるか観察しました。






飼育30日目  全長約17mm


頭部の尖った個体

 


 

 

 

 

 

頭部のやや丸い個体

 

 

頭部と尾鰭下部不形成個体はそのまま正常に戻ることなく成長したので画像は割愛。
上の2個体は野生下でよく見る表現です。





頭部の尖った個体とやや丸い個体を選抜し育てました。






飼育96日目 全長約35mm




個体A

 


 

 

 

 

 

 

個体B

 


 

イチモンジ体型ですね。
動きも特に問題なし。

 

 

 

 

 

ここから無加温で冬越しさせ春の水温上昇を待ちました。






飼育185日目  全長約50mm



オス

 


 

 

 

 

 

メス

 


 

水温が上がり性成熟の始まった個体。
オスは薄い婚姻色が現れ、メスは産卵管が出てきました。
2歳魚なので50mmとまだ小さいですが体型・体長に異常はないようです。
3歳オスでボス化すれば冒頭の個体になるでしょう。

 

 



 

産卵管の伸びたメス  F4

 


というわけで人工授精による体型異常は認められるものの世代をまたいでの改善は可能という結果が出ました。


体型改善した個体から卵を取り発生~成魚まで観察するとより精度が上がると思います。

採卵した卵が成魚に育つまで半年以上は掛かりますから気が向いたら再検証しましょう。







おしまい。。。
 

 

 

 

 

 

 

 

 


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