採集した時どこか違和感を覚えました。
胴体が他地域のスジシマドジョウに比べ短く感じます。
全体的に短いというより背鰭~尾鰭にかけて寸が詰まっているように見えます。
フィールドでは稀に成長不良の奇形個体が採集されることがありますがこの時は採集した複数匹に同じ体型がみられました。
最初は偶然かと思いました。しかし他の採集者があげている画像も全体に短い個体が散見され、オンガスジシマドジョウやハカタスジシマドジョウもアリアケスジシマドジョウ寄りの短い胴長に見えます。
この傾向は九州のスジシマドジョウだけに当てはまるのか?
否、本州にも同様の体型をしたドジョウがいます。
サンインコガタスジシマドジョウ
本州山陰地方に生息するこのドジョウにも背鰭~尾鰭の胴長が短い個体がいます。
ただ全ての個体が短いというわけではなく、数匹に1匹は混じるという印象です。
胴の長い個体(左)と短い個体(右)
このように同種でも体型の異なる個体が生息しています。
通常このような胴長の短い個体は遊泳力が乏しく上手く砂に潜れないため成長過程で淘汰されていくと思われますが偶然にしては数が多いのが気になりました。
体の短い個体の方が有利な環境というなら説明がつきます。
しかし他地域のスジシマドジョウと山陰、九州のスジシマドジョウの生息環境はそれほど違いがあるようには思えません。
参考に本州(東海~関西~山陽地方)のスジシマドジョウはこういう体型です。
トウカイコガタスジシマドジョウ
幼魚期の個体も胴長は変わらない
オオガタスジシマドジョウ
チュウガタスジシマドジョウ
ビワコガタスジシマドジョウ
サンヨウコガタスジシマドジョウ
多少の個体差はあるものの最初のアリアケスジシマドジョウのような短い個体が複数採れることはありませんでした。
そこで次に湧いてくる疑問はこの体型は遺伝性のものなのか?or後天性のものなのか?ということです。
先天性なら胴長の短い親から短い子が生まれ
(野生下で固定されているなら出現頻度は高い)
後天性なら胴長の長い個体が多く出現する
と予想し飼育下で繁殖した個体と比較してみました。
サンインコガタスジシマドジョウ
第1世代 野生オス
胴長が短い個体
第1世代 野生メス
胴長は普通
胴長の異なる親から生まれた子を育成してみました。
サンインコガタスジシマドジョウ 第2世代 幼魚
短い気もしますが幼魚期でははっきりしませんね。
幼魚たちを成魚まで育ててみました。
サンインコガタスジシマドジョウ 第2世代 成魚
背鰭~尾鰭の背骨がやや歪んだ短い個体が出現。
サンインコガタスジシマドジョウに関しては一定数短い個体が出現するという結果でした。
ただ飼育下では奇形の個体がそのまま生き残ったり、適切な環境を用意できずに体型に異常が生じている可能性があります。
そこで胴長の長いビワコガタスジシマドジョウで遺伝するか実験してみました。
ビワコガタスジシマドジョウ 第1世代のオス
ビワコガタスジシマドジョウ 第1世代のメス
上の両親から生まれた第2世代
上2匹が両親
下18匹が子
ここから正常な体型に育った個体を選びました。
ビワコガタスジシマドジョウ 第2世代
この第2世代を成魚まで育て第3世代を得ます。
ビワコガタスジシマドジョウ 第3世代
第3世代はより野生下に近い環境にし第1世代と同様の体型にしました。
ビワコガタスジシマドジョウを孫世代まで育成した結果、適切な環境で育てた個体は胴が短くならず第2世代で出現したやや短い特徴は遺伝しませんでした。
サンインコガタスジシマドジョウと比べ一時的に胴長の短い個体が出現しても遺伝的に固定されていないようです。
東海~山陽のスジシマドジョウと山陰~九州のスジシマドジョウ、どちらがイレギュラーなのか?
結論を出したいところですがどちらも進化の途上にある1形態に過ぎない、と述べるに留めておきましょう。
おしまい。。。