自分は一般企業に務める会社員だ。勤務態度は真面目で、上司からもある程度の信頼を得ている。いわゆる「普通に働いている」状態。でも出会いには恵まれておらず、もう長いこと彼女がいない。自分は、イケメンではないがブサメンでもないはずだ。学歴も年収も平均より高いし、まあ「ハイスペック」と言えなくもない。普通の女でいいのだが、どこかにいないものだろうか。職場の女たちは、年が上だったり、明るくて活発だが自分をイジってくる少々生意気な女だったり、顔は悪くないが地味過ぎたり…ちょうどいいのがいない。

 

 そこへ、同年代の結構かわいい女が転職してきた。超絶美人とまではいかないが、自分が今まで関わってきた女達よりは数ランク上だ。顔やスタイルはそこそこ良く、服やメイクなど見た目にも気をつかっているようだ。いわゆるお洒落な雰囲気というものがある。彼女と一緒にいると、「自分は良い女を連れている」という満足感を味あわせてくれそうな…。幸い、自分の職場にはいわゆる「イケメン」や「超ハイスペック」の男たち、つまり、自分より圧倒的に女にもてそうな男たちはいない。あの新しい女には彼氏がいるのだろうか。もし今はいなくて、この職場の中から新しい彼氏を選ぼうと思った場合、自分が選ばれる可能性はゼロではないはずだ。

その日は、部のみんなで軽い歓迎会をした。でも席が離れていたこともあって、彼女と親しく会話を交わす展開にはならなかった。とはいえ、良い情報を耳にした。彼女には今、彼氏がいないらしい。誰か他の人からの「彼氏いるの?」という質問に彼女が答えているのを聞くことができた。

それから数週間、彼女の様子を観察してみたところ、一般常識があり、仕事も真面目にこなす、いわゆる普通の女性のようだ。この職場に来て日が浅いので、仕事を進めるときに自分に質問してくることもある。そのときも、謙虚な態度で好感がもてる。年齢は自分のほうが少し上だし、職歴も上ということで、彼女と接するときは「後輩を育てる」という感覚で問題ないはずだ。先輩らしくいきたいし、フランクな感じで話したいと思い、ここ最近はタメ口で話すようにしている。

 

 これから先、まずは自分と彼女を含む職場のメンバー何人かで飲みに行くようになり、そのうち二人でも飲みに行くようになり、彼女が次第に自分を好きになってくれる…という展開にならないものだろうか。でもコロナ禍であまり飲み会は開かれない。

まずは気軽に世間話ができるような関係になってみたい。彼女はおしゃべりなタイプではないのか、単に職場では無駄口を叩かない主義なのかは分からないが、自分から仕事以外の話題を誰かに振っていることは少ないようだ。他の女性から話しかけられたら答えたり、ときには笑ったりしているところも目にするが。自分もどちらかというと無口なタイプだから、職場で自然に世間話をする展開にもっていくのは難しいかもしれない。別に自分は女に対して極度に緊張するようなタイプではないが、職場のみんながいる前で話しかけて、万が一不自然になってしまったりして彼女への恋心、まではいっていないが少し意識している気持ちを周囲に悟られたりはしたくない。からかわれたりしたら、彼女も嫌がって、いけるものもいけなくなってしまうかもしれない。

 

少し考えて、出社時と退勤時を狙うことにしてみた。彼女が出社しそうな時間はだいたい把握できてきたから、その時間帯に会社のエントランスの近くでスマホを見ているフリをして立っておく。

「あれ?自分さん?おはようございます。なんでここでスマホみてるんですか?」

「あ、おはよう。今ここで通知鳴ったから見てみたら、ちょっと実家から連絡来てて。別に重要な連絡じゃないんだけどね。実家で犬飼っててさ。母親が新しい首輪を買ったからって。つけてるとこの写真を送ってきてたんだ」

「へ~見せてくださいよ。うわ~かわいい~!!」

「新女さんは何か飼ってるの?」

「私は~~…」

 なかなか良い流れにもっていける可能性が高い作戦のはずだ。

 

 実行してみた。交差点の向かいから彼女の姿が近づいてくる。スマホに目を落としておこう…あれ?素通りされた。気づかれなかったのかもしれない。

 

 仕方ない。では退勤時を狙おう。怪しまれないように数日あけてから実行しよう。彼女が文房具などを整理し始めたらもう少しで退勤する目安だ。そのあとパソコンの電源を落とし、化粧室で身だしなみを整えてから退勤するのが彼女の習慣だ。その日は彼女が化粧室へ行ったのを見計らって、自分は退勤し、外でスマホを見ているフリをして待機していた。

 …あれ?また素通りされた。気づいていたはずなんだけどな。立ち止まって話しかけなくても、せめて歩き去りながら挨拶だけでもしてくれても良さそうなものだが。うーん…自然に話しかけるきっかけ作りが思った以上に難しいなあ…。

 

 

ここまで読んだ男性の方、どう思っただろうか。待ち伏せ作戦に賛成できるかはともかくとして、それ以外はまああり得る思考回路だと思われるだろうか。

実はこの「自分さん」の態度、全般的に、あり得ないほど気色悪いキモメン認定されてもおかしくはない、と個人的には思う。女友達に話すと全員拒絶反応を示していたw

というか上記は実話で、私は待ち伏せしてきた職場の男性を実際に気持ち悪いと思い、そして他の男性には同じ失敗をしてほしくない(というのもあるし、他の女性たちにこんな気持ち悪い思いをする人が一人でも減ればという思いもある)からこそ、今これを書いているのだが。

 上記の出来事は職場以外で起こったとしてもそれなりに不快な事例だが、職場以外の出来事だったとしたら「タイプではない男性が近づいてきた。でもタイプではないから素通りという形で丁重にお断りした」で済む話であり、こんなにも気持ち悪がることでもない。では、なぜ場所が職場となると男性はこんな言い草(本人に言ったわけではないが)をされなければならないのか。それを説明する内容もこのブログには書いていく。