【デリヘル】風俗嬢だった私と、いまの私
風俗を上がってから、しばらくのあいだ不思議な感覚があった。もう部屋に入ることもないし、源氏名で呼ばれることもない。それなのに、完全には切り替わらなかった。元風俗嬢、という言葉。強いようで、少しだけ重い。最初の頃は、なるべく考えないようにしていた。「あれはあのときの私」そうやって切り離そうとした。でも、うまくいかなかった。人を見る癖が抜けない。初対面の人の声のトーンとか、目線の動きとか。無意識に読んでしまう。距離の取り方も、どこか夜のまま。風俗 上がり、というのは過去を消すことじゃないのかもしれない。ある日、久しぶりに当時の写真を見た。源氏名の私が笑っている。知らない顔ではなかった。ちゃんと私だった。あの頃は必死で、強がっていて、でもどこか楽しんでもいた。いまの私と、完全に別人とは言えない。むしろ、地続き。夜の経験があったから、いまの選び方がある。警戒心も、線の引き方も、あの時間の中で覚えた。消したいと思ったこともある。でも消えない。だったら、持ったまま歩くしかないのかもしれない。風俗嬢だった私も、いま文章を書いている私も、同じ体を使っている。切り離せないなら、敵にしない。そう思えるようになったのは、辞めてから少し時間が経ってからだった。過去は消えない。でも、形は変わる。いまはただ、あの頃の私を少し遠くから見ている。否定もせず、美化もせず。そこにいたことだけは、確かだから。