あなたの指とボクの口唇41 | ビールと猫'sと嵐さんと(注・BL)

ビールと猫'sと嵐さんと(注・BL)

嵐が大好物
J担 翔潤loverですが、櫻葉&大宮何でもアリです(妄想、腐ってます)

人の勧誘目的、宣伝目的、男性は入室されないでください。
絶対に申請認定しませんから。


 
 
 

 

 

 舞台の上はアリアが流れている。


 そして、その後ろに演者。


 翔様は顔色ひとつ変えずにただ聴き入っている。


 奥様やほうしょうさまが「ほぅ」ッと息を吐けば、つぶっていた目を半眼にし、ボクの右手に、

(なにがあった?)

と尋ねてくる。


 ボクはボクの目で見たことをそのまましょうさまの掌に書き、何があったかを伝える。


 満足そうにしょうさまが頷き、

「今、演者の声の位置が遠くなり、演奏が強くなりましたが場面展開ですか?」

と、まるで見ているかのように質問をするから、

「ええ、その通りですわ。

 さすが櫻井様、音に敏感でいらっしゃる。

 いつか、この演奏を櫻井様のものでお聞きしたいものですわ」

ほうしょう様の瞳がキラキラと憧れの眼差しに変わった。


 宴が終わると周りからしょうさまにひっきりなしに声がかかり、今日ピアノが聴けないのを残念だと口を揃えて言う。


 まるっきりさっきのことの繰り返し。


 嘘八百で塗り固めた言葉も同じ。


 早くこの場から連れ出してあげたい。


 こんな最低な人たちの言葉で、しょうさまのお耳を汚したくない。


 そう思っていた時、誰かが寄ってきてほうしょう様に耳打ちした。


「そうね、そうだわ、翔様は一度聞いたものを再現できるのでしたよね。

 なら、先程のアリア、ぜひ披露してはくださいませんか?」


 この人!


 悪びれた様子もなくほうしょう様が言う。


 周りの人も、それに興味が惹かれたようにほうしょう様に同調する。


 パッと大広間に置かれたピアノの前にしょうさまへと導く道が開けた。


 わざとだ。


 ほうしょう様はただその人に言われて動いていることは、その顔を見ればわかる。


 でも、けしかけたその人はこれが目当てだったんだ。


 しょうさまを辱めようとしている。

 

 それを見物して嗤おうってこんたんだ。


 そんなの許せない。


『帰りましょう、しょうさま。

 こんな人達の挑発に乗ってはいけません。

 しょうさまに恥をかかそうとしているだけです』


 慌てて、手のひらに書くと、

「ふふ」

微かに嗤ったしょうさまは、

『俺を馬鹿にした罪、受けさせてやるさ。

 潤はそこで見ておいで、俺のすることを。

 そして、お前だけは信じていておくれ』

とボクの手に書き、

「皆様のお耳汚しにならなければいいのですが」


 そう言って、見えているかのようにピアノに歩み寄った。


 ハラハラしながら見ていると、軽やかな手でしょうさまがあ音楽を結んでいく。


 さっきの演奏とは打って変わって情緒的な、同じ舞台をこのしょうさめの演奏でやったらどんなに素敵だろうと思わせるような、そんな演奏だった。


「私の耳にはこのように聞こえましたが、皆様にはどのように?

 ああ、少しばかりアレンジが効きすぎていた箇所があったので、譜面通りに弾かせていただいた場所もありましたが、よろしかったでしょうか、坂本様」


 にこにこと有無を云わせないしょうさま。


「やられたらやり返さないとな」


 小さな声でボクに耳打ちした翔様は満足げな顔をしていた。

 

 俺を汚そうと言うならやってみろという感じで、堂々とピアノから離れる。


「ちっ!盲のくせに!」


 誰かが舌打ちするのをものとも言わず、

「本日はこのような席に呼んでいただきありがとうございました。

 素晴らしいものを聴くのはこれからの糧となります。

 母はもう少々宝生様とお話がしたいようなのですが、私のような片端のものにはこの場所はふさわしくありませんので、お目汚しの無いよう、こちらで失礼させていただきます」」

「あ、でも、私翔様ともっとお話がしたいわ」

「ご勘弁ください。

 ここは、このような姿が似合うような場所では場所ではございません。

 お話なら、母に」


 肩に添えられたほうしょう様の手をそっと外し、

「潤、馬車へ」

切りつけるように言ったのは、これ以上の面倒が起きる前に帰るぞ、という印。


 ボクは空気が揺れるほど大きく頷くと、ぱっと走っていって御者さんを探し、しょうさまの手を取り、一礼してその場を後にした。