この雰囲気のままではらちがあかない。
誰か屈強な人が出てくる前にここを逃げなくちゃ。
そう思ったわれは、逃げようと扉の方へ行く。
でも、扉の前には自分より少し年上の男性が立っていて、その人をよけて出て行くのは不可能のように思えた。
それに、動けば、
「今度は椰子の方に行ったな!欺こうとしても無駄だ、俺の耳にはお前がどこにいるのかがちゃんと聞こえてくる。いい加減名前を言ってここにいる理由を話せ。あまり長くは待たないぞ。大人を呼んでつまみ出したっていいんだ」
違和感。
なぜわれの方に顔を向けない?
さっきからあらぬ方向を見ながら喋っている。
手に持っている棒は何?
われを打つためではなさそうだ。
それに、語尾が震えている。
われの足は速い。
巧みに右へ左へ小刻みに場所を変え、様子を見ていると、踏み出しの音が聞こえる瞬間は顔を向けるのに、その後は我を探すように左右に顔を向ける。
もしかして……見えてない?
だとしたら、ここから逃げないでじっと息を殺していればいいのではないか?男性がわれの存在を諦めるまで。
われは足を止めその場にしゃがみこみ息を殺した。