あなたの指とボクの口唇2 | ビールと猫'sと嵐さんと(注・BL)

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嵐が大好物
J担 翔潤loverですが、櫻葉&大宮何でもアリです(妄想、腐ってます)

人の勧誘目的、宣伝目的、男性は入室されないでください。
絶対に申請認定しませんから。

 

 

 絶対音感だなんて言いふらしたのは両親。

 

 子供だった頃、いつも側にいてくれない両親の眼を自分に向けたくて、必死に出来ることを探した。

 気がついたのは、母の歌も父のバイオリンの音も、誰かが喋る文字のように見えてきたこと。そして、忘れないと言うこと。

 

 何の取り柄もない息子を初めて両親が見た日、俺はヘッドホンから流れる誰とも知らない人の弾くピアノをポロポロと弾いていた姿だった。

 音楽一家に産まれながら何をやらしても芽が出ないと思っていた息子が、音符も見ずにピアノを弾いている。

「何を弾いている?」

「この文字みたいな音」

 

 両親は喜んだ。

 この子は絶対音感を持何度も何度も一見っているのではないかとでピアノを弾かせた。

 音に狂いはなく、母の歌でさえ即座に音に変えられた。母の持つくせさえも過たずに弾いた。

 

 必死だった。それしか両親の目を自分に向けられる手立てなど無かった。

 聞けば何でも音に出来るように常に感性を研ぎ澄ましていた俺は、言われれば何でもピアノで弾いた。

 両親は自分の行くところに必ず俺を連れて歩いた。後見人をつけることでしか社交界で有名になるすべはない。

 二人の意を汲んだ俺は、常にかわいらしく、時に聡明な子供を演じ、ピアノを求められた時はたおやかな少年から思いもよらない重厚な音楽を出すようにした(いや、そう躾けられた)。

 俺の名は瞬く間に社交界に広まり、まるで見世物のように人に呼ばれては言うがまにピアノを弾いた。

 パトロンはすぐについた。

 皆やりたがったが、両親が選んだのは近藤男爵だった。

 

 欧州の貴族とも親しくしている彼のお陰で、俺と一緒に両親の名も人々の口に上がるようなった。

 毎夜毎夜開かれる鹿鳴館で音を紡ぎ、昼は昼で寝る暇を惜しんで耳を研ぎ澄まし、音をみつけ、ピアノの技巧を勉強する事に勤しんだ。

 

 尋常小学校に行っているのは建前。ほんの少ししかない俺の息抜きは人工的な音の聞こえない場所。

 

 そっと扉を手で押せばキィーっと使われていない事が誇らしげにも聞こえる、ここ、屋敷の奥にポツネンと佇む温室だった。

 

 それは、見えなくなったいまでも、変わらない。

 

「お前らだけだな、見えようと見えまいと変わらない葉ずれの音を聴かせてくれるのは」