「どうしてそんなことを?
やっぱりなにも言わないで出ていったこと怒ってるよね、それで、そんな頓珍漢なこと言うの?」
「違う。そりゃ出ていったときはショックだった。俺ってそんなに信頼できる相手じゃなかったのかって思った。
何時までもいるって言葉、お前には軽い意味だったかもしれないが、あの約束が俺の支えになって退院するのが待ち遠しかったんだ。
なのに帰ってくればお前はいなくて。
やっと見つけたのだって偶然が引き起こした出来事だ。
横には男がいて、俺には見せたことのない静かな微笑を浮かべているじゃないか。
嫉妬するよ。俺には引き出せなかった表情だ」
しょおさんの言葉に耳を疑った。
静かな微笑み?
……だとしたら、あの山小屋の出来事がボクをそう見せたのかもしれない。
静かで、春は鳥のさえずり、夏は蟬の声、秋は葉擦れの音がして、冬は深々と降る雪の音。
ボク達の声は何もなく、木を削ったり薪をくべたり時間なればどちらかともなく夕食を作り、自然と部屋に戻っていく。
あの生活はボクを豊かにしたと言っても過言ではない。
それをしょおさんと分かち合うことは出来ない。
でも、
「ボクはね、しょおさんに出会って生きようと思ったんです。
けれど、ボクは怪我を早く治したけれども、しょおさんは怪我をしたままだった。
そのとき、ボクの目の前で全てを拒否して空を飛んだあの子の事を思い出したんです」
言わなくてはいけないこと。
しょおさんと居たいと思うボクが今ここにいるから。
ボクは目を反らすことなく言葉を紡いだ。