拘束がとれ、少し戸惑った顔の潤の顔を撫でた。
「何があったの?」
「ボク……」
「ん?」
「足が滑ったの。でも、いつもは目を開ければ菩薩様の掌に乗っかってるの。菩薩様の手が動いてボクの事を掌に乗せてくれるの。
でも、今日は違った。
目を開いてたんだ、落ちる時。
けど、菩薩様はボクの方を見てくれなかった。
そのときわかったんだ。
やっぱりボクは菩薩様にも拾ってもらえないくらい悪い子なんだって。
拾ってくれてたのは、ボクが生きていていいかどうか試すためだったんだってわかったの。
でも、やっぱり救う価値がないから手を伸ばしてくれなかったんだ」
潤……。
「菩薩様が救う、救わないって何?」
「菩薩様の手には水掻きがあるんだって。それは、どんな人でも救うために、掌から落とさないように。
昔、お婆ちゃんが言ってた。
ボクはその水掻きにも引っ掛かんなかったよ。
救う価値もないくらいダメな子なんだよ」
悲しそうな顔、全てを諦めた顔。
俺はなんと言えばいい?
このままでは潤は……。
うん、素直に言おうか。全て、飾らない言葉で。
「じゃあ、菩薩様は俺に潤を救えと言ったんだね」
目をぱちくりする潤。
「潤を助ける役を俺にくれたんだ。
くれた、というよりバトンタッチかな。
俺が試された。
『本当に好きならお前が救え』と試された。
潤が大ケガをしなかったのは菩薩様が俺が潤の事を好きだってことを認めてもらえたんだろう」
潤はボクを見つめたまま目を離さない。
俺も潤から目を離さない。
「好きだよ、潤、大好きだ。
ずっと俺のそばにいて。
もちろんそれは束縛じゃないから、嫌だと思ったら言ってくれ。
その代わり、いやだといってもいい。
それでも、潤が今後生活に困らないようにする。一人立ちできるまでは面倒みさせてくれよな」
「しょぉくん……」
その一言で、潤は黙り込んでしまった。
でも俺は否定されなかったことにほっとしていた。