はぐはぐ
はぐはぐ
ご飯が美味しい。
お熱が出ちゃうと固形物が摂れなくなるのはいつものこと。それを知ってるしょーくんは、ボクに食べろって言わないの。
まーくんも和也もさと兄ぃだって、何でもいいから食べなさいってカステラだったり、ういだーin、みずまんじゅ?とかつるんとか、お腹にもたれないものとか枕元に持ってきてくれるの。
うれしいんだけど、熱が出て、苦しくて喉も痛いボクには全部無理で。
小さな頃扁桃腺が大きいから熱が出やすいんだよ、取っちゃおうねってお医者さんが言ったとき、ボク怖くて椅子から飛び降りて手当たり次第先生に向かって『やだよ!』って物を投げたんだ。
『やめなさい、潤』
しょーくんに抱き締められるまでボクは部屋の中からの出口をさがしたんだ。
飛び出そうとしたボクを優しく抱き締めてくれたしょーくんは『どうした?こわいか?それとも他に理由ある?』って優しく聞いてくれたから、
『だって、へんとうせんなんて名前をもらってる子をどうにかしちゃおうなんて。
ボクはおとーさんにおナマエをもらうまではそんなものなかったんだ。
へんとうせんさんだってたいせつなおナマエの物なんだ。
ボクの中にずっとへんとうせんさんにいて欲しい』
って言ったの。
そしたら、ビックリした顔をした後笑って、
『先生、熱が出て苦しんできたのはこの子です。
それなのにその原因と別れたくないなんてバカな子ですが、僕はその気持ちを汲んでやりたいんです。
また熱を出してご厄介なると思いますがどうかよろしくお願いいたします』
って頭を下げたんだ。
たぶん中学生くらいだったと思う。
でもやけに大人びてて、お医者さんも目をぱちくりさせてた。
結局、へんとうせんは取らなくてもよくなって、やっぱりいつも熱が出て、今日みたいな大事な日に熱が出ちゃう羽目なるなんてって思ったんだ。
でも、苦しくてもしょーくんが手を握ってくれて、
『食べられなくてもいいんだよ。でもさ、口唇、なめてごらん』
そういってボクの口唇にはちみつをつけてくれたんだ。
甘くて、喉も痛くなくて、とっても美味しかった。
今日のご飯は美味しいけど、あのときのしょーくんの甘い、甘い味には叶わないね。
ね、しょーくん。