「良い顔してますね」
グラビア撮影の現場、前室に入るとゲームから目を上げずにカズが言った。
「見てないくせに」
そう言うと鼻で笑って、
「6年も一緒に家族よりも長い時間を過ごしていれば、あなたの足音でわかるんですよ。
ああ、今日は体調悪いな。今日は機嫌が悪いなとかね」
「じゃあカズの中で今日のボクは?」
「頗る機嫌が良い。嬉しくって、楽しくって、幸せだなって思ってるでしょ。違う?」
「違わない」
「良かったですね、あいバカと仲直りできて」
「そんなことまでわかるの?」
「あいバカからね。泣きながら『潤ちゃんが赦してくれた』って。そりゃあもう満面の笑顔でさ。
こんな顔をさせる潤くんに嫉妬したくらいですから」
え?あれ?
「お店で?」
「違います」
じゃあどこでカズに報告したんだろう。
「付き合ってるんですよ、私達。と言っても『潤ちゃんがあんな思いしてるんだ。僕に誰かと付き合う資格はない』って言うから仮押さえしておいたんです。
で、晴れてお付き合いすることになったって訳」
そうなんだ。カズとまー君はお付き合いしてるんだ。
「あの日から罪悪感を抱えて震えてる雅紀を一人にはできなかった。あまりにも切ない顔は私と大野さんにしか見えてなかった。だから、寄り添った。Jr.の時から好きだったんだから。」
「お似合いだよ二人。優しさと厳しさ似てるような気がする」
うん、よかった、まー君を支えてくれる人がいて。あのときわかったんだ。切ないくらいの虚勢の裏の寂しさや悲しさ、弱さ。だから嬉しいって心から思うよ。
「あなた達だってお似合いですよ。翔やんずっと潤くんのことが好きだったから。
両想いなのに辛いねって大野さんと言ってたんです」
そんなふうに見てたんだ、二人は。ボクとまー君が道を違いながら同じグループとしてやっていくのを。
すごく罪悪感を感じた。
これまでのボクになにも言わずに一緒にいてくれたみんなに。
「カズ、ごめ」
「聞かないから。そんな言葉は必要ない。私達はともだちで、仲間で、家族でしょ。潤くんは私の弟ですもん。全部和歌るから」
「か……」
「泣かない!撮影だよ!」
「ん、ん、ん」
ボクは一人じゃないんだ。
周りが見えてくれば広がる世界。
飛び立てる気がする。
違う飛び立たなきゃならない、自分の力で。