「担当裁判官、再審査開始決定書提出したんだってね」
くるくると椅子を回している深山。俺の言葉に曖昧に頷き、
「『総合評価を経た結果、殺害事件の真犯人は二宮和也である旨断定した確定判決に対し、二宮和也は無実であることが明らかな証拠が新たに存在するに至ったというに充分である』ってね。
スタートに立ったにすぎない。やっと裁判の場に検察をもう一度引っ張り出した。
材料は揃ってる。勝つよ、無罪を勝ち取る」
まだスタートに立ったにすぎない。そうだな。
「俺の罪も明らかにしろよな」
「……」
「何、変な顔して」
「今まで培ってきたもの失っても、それでも?」
「何、同情?それとも俺に惚れた?」
「ほれっ!」
「うそうそ」
顔を真っ赤にする深山を軽く往なして、
「マスコミが手を引かなければもっと早くにこの冤罪は解決されていたんじゃないかな。
あの女のことだから検察側にも手を出しているんだろう。俺が証言すれば、もう言い逃れはできないよ。
仲間には迷惑をかけるが糾弾されなくてはならない」
そう言い、深山の前に封筒を投げ出した。
「それ、使え」
「何?」
「SMSの写し。俺とあの女のやり取り」
「櫻井お前本当に……」
「有効に使ってくれよな」
にやりと笑って刑事ルームを後にする俺の背中に、
「たまにはいとこんち来いよ。何か作ってやる」
ぶっきらぼうな深山の声が追いかけてきた。
進展したんだろうか……少しは……?
そして裁判は深山の進めるままに。俺も証言台に立ちあの女との関係を認めた。
私がやったんじゃないと泣き叫ぶ女と俺が指示を受けて岡本を刺し殺したと認めた男。
「ねえ、おばあちゃん。パパとママはどうしたの?
何かママ、怖いよ。パパっ!パパっ!いつもみたいに抱っこしてよ!」
法廷内に小さな子供の声が響き渡った時、能面のような顔で立っていた二宮が声をあげて泣き崩れた。