車の中、隣に翔さんが座ってる。まっすぐ前を向いて何も言わないまま。
すごく居心地が悪い。
翔さんの車なんだから翔さんが車を運転すればいいのにマネージャーさんが運転してる。何でわざわざそんな面倒臭いことをするんだろう。
「すみません途中で相葉の家によってもらえますか」
「え!」
な、なんで相葉くんを?
「い、嫌だよ」
「どうして?」
どうしてって、知ってるはずだよね翔さんも。相葉くんがボクに何をしたか……。
ボクを地獄に突き落としたのは相葉くんだ。子供の頃はわからなかった。まさかそんなことするような人だなんて思わなかった。
けど、大人になって周りが見えるようになって、蔑んだ目をしてボクを見る人、舌なめずりをする人。
おしりを揉んだり、セットの裏で口説いてくる人。そういう人がどういう目でボクを見てるか。
たきざわくんの事を知ってるからそんなことをされる。それはとっても苦痛な事。
そういう趣味を持った奴だって思われて、どんなに違うと叫んでも誰も聞く耳を持たなかった。
あの日から始まった。
たきざわくんの襲われたのはみんなみんな相葉くんのせいじゃないか。相葉くんさえあんなことを言わなかったら、ボクは好きな人を好きだと堂々と言えた。
今のボクにはもう許されないこと。
同じグループで一緒に活動して、笑って、ふざけて、じゃれて……でも、許してない。ボクは相葉くんが憎い。
「どうしてでもだよ!憎いからだ!この場で洗いざらい喋る?いいよ別に。事情を知らないマネージャーがいるこの空間でさっ!」
鼻の奥がつーんと痛くなってきた。
でも、泣かない、泣くもんかっ!
「潤、お前は被害者かもしれない。でも、その一方で加害者なんだよ。
お前の本当の笑顔が消えた。じゃあ相葉は?雅紀は笑ってる?心の底から笑ってる?ビクビク、おどおど、お前の顔色を伺ってる雅紀は笑ってるのかな?」
「笑ってる……じゃ……ん」
「本当に?あれからお前は雅紀の顔を見た?」
みて、ない。
「お前が辞めたくないのは何から?」
「ここ。ボクの居場所……」
「じゃあ、避けては通れないよね。雅紀の居場所もまたお前の居たい場所の一部なんだからさ」
翔さんの言うことはボクの胸を抉った。そこには『かわいそうだったな、潤』なんて同情の欠片もなく、子供っぽい甘えはもう許さないと言われているのがわかった。
ボクは……自分で自分をかわいそうなやつにしていたんだ。