ペッと俺の指から吸った血液を吐き出し、流水で傷口を洗う。
「だ、大丈夫だよ。
ほら、りっちゃんが脅えてる」
高い位置で俺たちのやり取りを見ていたサルは、キッキッっと悲しそうに小さく鳴いていた。
「ダメです!
りつはゲージに入りなさい!」
「キーッ」
強い声で彼が言えば慌てたように自らゲージに入るサル。
「本当に、大丈夫だから。
後は軽く消毒でもしとけば…」
「あなたは!
あなたはわかってない!
ここはバイオサイエンスの研究室です!
バイオハザードなんてゴロゴロしてる。
扉のところのマークを見なかったんですか!
この研究室の子達はボクから見れば友達だけど。
友達に実験なんてできないけど。
他の人から見れば…実験動物なんです。
実際にボクがもらうまでそういう研究室にいたんです。
りつもピヨも!
だから、だから…っ!」
そっか、この子が連れている子達はきっと昔は実験動物として苦しめられて。
それを引き取った彼はもう二度とこの子達が苦しまないように…。
俺を心配してくれているのは本当だろうけどそれ以上に、俺に何かあることでこの子達が処分される恐怖に脅えてる。
「ね、泣かないでよ。
不用意なオレが悪かった。
君が大丈夫と思うまで消毒してくれる?
あんな頭のいい子が指を噛んだんだ。
きっと怒らせたんだよね。
俺、彼と仲直りしたいんだけど」
「…りつは、女の子です。
たぶん、あなたが好みだったのに男の子って言ったから怒ったの。
ああ、良かった、あんまり深く噛んでないや」
ほっとした顔で笑う彼は本当に、本当に可愛かった。