愛しい人として、雅紀と愛し合えた。
雅紀のおれを呼ぶ声が耳に残っている。
屋敷に戻る車の中で幸福感に浸っていた。
その、おれの気持ちをぶち壊すように、
扉の中、階段に寄りかかって大野がおれを待っていた。
「んふ、朝帰り、ですか、お坊っちゃま」
睨み付ければ、鼻で笑われ、
「旦那様が呼んでおられます。
けれど、その前に、聞きたいことがございますのでお話よろしいですか?」
恭しい態度。
明らかにバカにしてる。
でも、こいつに腹をたてるのもバカバカしい。
話すことなんかなにもない。
無言で通り抜ける。
すれ違い様、腕をスゴい力で捻られ、
階段の手すりに押し付けられる。
「なにすっ!」
「無視は良くないなぁ、仮にもお兄様だよ?」
「知るかっ、そんなことっ!離せよっ!」
「お前、あの屋敷に行ってたんだろう。
そこに、潤と言うガキがいるはずだ。
もう1人、同じ年格好のガキが、いたな?」
「知らないな、そんなやつ」
「知らない?」
「っあっ!やめろっ!」
ギリギリと捻りあげられ、腕が悲鳴をあげる。
「言えよ、骨、折るぞ」
耳元でささやくように言われ、全身に鳥肌がたった。
けれど・・・、
「し、らないことは、い、え、ないっ!」
「ちっ!使えねぇ」
「うわぁっ!」
突き飛ばされて階段から落ちる。
右手がだらんと垂れ下がった。