僕のクローゼットの奥の奥、誰にもわからない場所に、それはある。
きっと死んだら処分されちゃうだろう。
そんな、僕以外にはなんの価値も無いモノだけど、僕にはかけがえのないモノ。
あなたは覚えてるかな?
スチール撮り、一緒に行った海であなたが足を滑らせて海に落ちた事があったよね?
あの時、どうにかしなきゃって伸ばした手はあなたの身体には届かず、かろうじて掴んだ洋服はぼたんを1つ僕の手の中に残して行っただけだった。
「おーちゃん!」
音を立てて海に落ちたおーちゃんは、頭まで沈んで見えなくなる。
僕が焦って、「おーちゃん、おーちゃん!」と名前を連呼すれば、
「うわぁ~最悪だぁ~」
と水面に顔を出し、
「相葉ちゃ~ん~スタッフさん呼んでくれる~?ここ、足立たないから引き上げて貰わないと駄目だぁ~」
なんて、のんびり立ち泳ぎしている。
慌ててスタッフさんを呼び、おーちゃんをみんなが引き上げている最中、僕は震えが止まらなかった。
「相葉ちゃん、大丈夫?」
頭からバスタオルを掛け、毛布でぐるぐる巻きにされたあなたの方が大変なことになってるのに、僕の心配なんて・・・。
「お、おーちゃん・・・ぅぅ~!死んじゃうかと思ったぁ~!」
僕は涙でおーちゃんが見えなくなって、毛布の上からギューッと抱きついた。
「大丈夫、大丈夫だから・・・。落ち着いて、ね?落ち着いて。相葉ちゃんも1回バンに戻ろう?」
その後、僕は泣いてるし、おーちゃんは塩水でベトベトだしで、撮影中止。
結局、バンの中にビニールを敷いて座らせられたおーちゃんと2人立ち寄りの湯に連れて行かれてスタジオに戻ったんだっけ。
あの時、僕の手の中に残ったぼたん。大人になった今でも大事な宝物。
「あーばちゃーん、タオル~!」
「もお!智くんたら何で持って入んなかったんだよぉ!」
「忘れたぁ~!」
「くふふふ、しょうがないなぁ」
僕はタオル片手に、バスルームへ足を向ける。
クローゼットの奥深くに眠っているのは、誰にも内緒。
もちろん、智くん本人にも内緒にしておくんだ。