ぼんやりと車窓を見ていたら、懐かしくなって何年も前の事なのにその駅に降りてしまった。
少し歩く。
いつの間にか降り出した霧雨が僕の全身を濡らしていく。
橋の上、かすかに弧を描く銀水盤。
あなたと別れてしまってから、もうどのくらい経つんだろう。
「遠い街に行くから・・・」
そう言ったのはあなた。
「捜さないから・・・」
そう言ったのは僕。
捜さないからは裏返し。捜し出すから、そう言いたかった。
忘れたことなど、一時だってない。
今もこうして、あなたの姿を捜している・・・。
伏せた睫毛に霧雨が溜まり、目じりを伝って顎へと流れる。
ぱしゃん
銀水盤が不意に揺れ、水面が波打つ。
音がした方向に眼をやれば、困ったように立ちすくむ少し猫背のあなたの姿。
僕と同じように濡れそぼっている。
言葉は無い。
でも、その瞳は確実に僕を捕えている。
僕の目じりから顎へ流れる水は温度を持った。
あなたの手が僕を迎えるように開かれ、僕はその腕の中に飛び込んだ。
言葉は無い。
霧雨は続いている。
きっと朝まで止むことは無いだろう・・・。
霧雨はもう、僕を濡らすことは無いだろう・・・。