真夜中の電話・・・
ダレ?
電話をとれば、淋しそうに
「オレ・・・ごめん、寝てたよな。明日の仕事、早いんだっけ?」
絞り出すような声で貴方は言う。
「なんか、ありました?」
外、から、なのかな?
ザワザワと街の音がする。
こんな時間に外からだなんて、飲んでたのかな?
「いや、そーゆー訳じゃ、ないんだけどね」
貴方の、声を聞きながら、カーテンの隙間から覗く外に目をやる。
あぁ、白々と蒼い空。
貴方と別れようと決めたのもこんな朝だった・・・
ねぇ、ボクはやっと貴方の事を忘れかけてたんだ。
抱き締められた時の温もりも、
ボクに囁く時の声も・・・
ずっと、ずっと、逢いたくて、
仕事で逢うんじゃない、貴方に一目逢いたかったんだ。
もうすぐにでも寝直さなきゃ。
仕事の時、瞼を腫らしてたら、また怒られちゃう。
「ねぇ、何もないなら・・・」
迷惑、そう言って電話を切ろうとした瞬間だった。
「迷惑なのは、判ってる。
でも、一目だけで良いんだ、逢いたいんだ」
息を飲んだ。
貴方もそう思ってくれてた!ボクだけじゃなかった!
でも・・・
「ドア、開けません」
「頼むよ・・・」
「駄目です。・・・終わったんです」
優しさは時に残酷だ。
悪く思わないで・・・。
ボクは、まだ、きっと、貴方を愛してる。
甘えてくる時の貴方も、おどけた時の貴方も、その沈黙も・・・
全部、全部、まだ愛してる。
涙が頬を伝う。
「仕事、だから、寝させて?」
電話、ありがとう。凄く、嬉しかった。
あなたがまだ貴方がボクのことを忘れないでいてくれたこと。
でも、もう戻れない。
「わかった。ごめん。・・・また、現場で」
朝がやって来た。
別れを決めたあの時と同じ、蒼い空・・・。
いつの間にか切れた電話からはツーツーツーっという無機音。
そっと、受話器に耳を当て、ボクは呟いた。
「Who are you?」