何もかも翔さんには知られていて、逆に隠さなくていいことでホッとする。
「帰ろ、潤」
「・・・うん」帰ろう、オレの場所に。
「よし、決まり!」そう言うと翔さんは立ち上がり「じゃ、早速荷物まとめなきゃな。あ、お前は横になってて良いから。どうせ、たいした荷物も無いんだろ。ちょっと車行ってスーツケース取ってくるから」と慌ただしく外へ出ていった。
残されたオレは茫然とする。次の瞬間、笑いが込み上げてきて「なに笑ってんの?」とスーツケースを2つも抱えた翔さんのまぬけた姿に、さらに大笑いした。
瞬く間に荷物をまとめあげられ、後部座席にタオルケットと枕を積まれてしまうと、部屋の中はガランとしてしまった。
1年と少し暮らした家は、本当になにもなくて、スーツケース1つに収まる。
それでも、ここで寂しさに震えて眠った夜や流した泪の事は忘れない。
オレには必要な時間だったんだ。
「翔さん、帰る前に先生に挨拶してかないと。それと・・・」
「うん?」
「あの子に、お礼を言わなくちゃ。先生なら知ってるかも」
そこまでは、と助手席に乗る。何も言わず車を走らせ、クリニックの前で停まった翔さんは「ちょっと待って」サングラスをかけ直し、助手席側の扉を開けオレを抱え降ろす。
「過保護」
「何とでも言え」
2人揃って挨拶に行くとちょっとビックリした顔の先生が「うわー、松本くんだけでも芸能人オーラ凄かったけど、今日はまた、オーラ全開だねー!イヤ、良いもん見た。奥さんにも見せたかったなぁ」と頭を掻いた。