「はぁっ……はぁっ……」

 眩暈がする。
 呼吸をするのもやっとで、どうにか木に支えられて立っていられているが、もう倒れそうだ。

 しかし、歩みをやめてはいけない。

 つい何時間前までは、父と母と、お兄ちゃんと。
 みんなで笑い合っていたのに。

 ―――――笑い合っていたのに……!

「っぅうっ……なん、で……っ」
 景色が歪む。
 生暖かいものが自らの頬を伝い、地面に落ちては消えていく。
 
 あのフードを被った男は誰だ?
 何故家族は殺された?
 何故私は追われている?

 次から次へと、いくつもの疑問があふれ出る。

 あの惨状を思い出すたびに、嘔吐していたが、もう吐き出すものもついえたらしい。
 吐きそうにはなるが、もう何も出なかった。

「もう、嫌だよ、……」

 ここまでくれば、もうあいつらは追ってこないだろう。
 そう、思いたい。

「お母さん、お父さん、お兄ちゃんっ……みんな……みんな……」

 私を残して――――――いかないで…………。


 ふっ、と力が抜ける感覚がした。
 

 そのまま、彼女の意識は闇に落ちて行った。






「ん?」
 学園に戻る途中、こんな人気のない森の中、何か落ちている。
「……拾った方がいいのか?」

 誰に言うのでもなく、呟いて、とりあえず近づいてみることにした。
 近くまで行くと、どうやら人間だと気付き、慌てて体を揺さぶる。

「おい!大丈夫か!!」
 焦って大声を出してしまった。
 何度か揺さぶっていると「んん……」と非常に五月蠅そうに眉根を寄せられてしまった。
 どうやら寝ているらしい。

「……こんなところで呑気に昼寝か……?」
 いや、流石にそれはないだろう。
 ふと、彼女の着ているローブが赤黒い何かで濡れていることに気付く。

「…………」

 しょうがない、連れて帰るか。

 少年は決意し彼女を背負うと、学園長に怒られっかなー、と呟いてその場をあとにした。