私は再び、極力優しくおじちゃんの左腕に触れて


「でんぴょう?」ときいた。


うんうん、と、優しく頷くおじちゃんに、私は伝票を手渡してあげた。


「ありがとう。やさしいね。ありがとう。」

 

おじちゃんは笑顔だった。


「おじちゃん、気をつけて帰ってね」


そんなやりとりをして、会計へ向かうおじちゃんを見送った。



そんな、ちょっとした手助けができた事と、おじちゃんの可愛い笑顔を見れた事にほくほくとしていたら


ふと、、


父のことを思い出してしまった。




私の父は、扁平上皮癌という、ちょっと珍しい癌が額に出来てしまい、癌宣告を受けて8ヶ月で失明、一年もたずに亡くなってしまった。



ふと、、さっきのやりとりで、光を失った父とのやりとりを思い出してしまった。



急に、涙がこみ上げてきた。


ホイコーローもごはんも、あと三分の一くらい残ってる。

私は涙を紙ナプキンで拭きながら、キャベツ、肉、ごはん、スープ、お漬物をガツガツと口に放り込んだ。


お父さんが生きていたとしても、きっと視力が戻るのは難しかった。

だとしたら、さっきのおじちゃんみたいに、ひとりでご飯を食べたり、目が見えないのに夜道をひとりで歩いたり… そんなの、、心配すぎる!!


おじちゃん… お父さん… おじちゃん……おとうさぁん………


やべぇよ、ホイコーロー定食食べながらガン泣きしてるアラフォー女やべぇよ、、、



ひとりで退店させてしまったおじちゃんの事も心配だったが、きっとあの人はこうやって、このお店のカウンターに座って、焼きそばを食べるのにも慣れているのだろう。

じゃなきゃ、一連のあの動作はなかなかできたもんじゃない。


おじちゃんはいつから目が見えないのかな。

事故?病気?それとも…?

なんにしても、つらいよね、、つらかったよね、、

今もこんな時間にひとりでご飯食べてるって…ご家族はいらっしゃらないのかな。

万が一、、父が生きていて、あのおじちゃんのように毎日を過ごしていたら…… 


もうホイコーローが涙の味しかしないよ…


私がいろいろ心配しても仕方がないのだけど、とにかくそんな事をぐるぐる考えながら、ホイコーロー定食ご飯大盛り(当社比)を完食した。


お会計を済ませ、外に出たあと、あたりを見回してみたけど、おじちゃんの姿はもうなかった。


家に向かって歩きだしてすぐの交差点で、後ろからフラフラ走ってきた自転車が、私の横スレスレを通っていった。



(あっぶないなぁ!)



乗っていたのはメガネをかけた30代くらいの女性。


右手にはスマホ。耳にはイヤホン。


自転車に乗りながらスマホ(イヤホンつき)である。



ばっかやろう。



事故って視力を失ったって知らんぞ!!!



ばっかやろう!!!



寒空の下、私はふたたび涙を流しながら心の中でつぶやいた。




帰宅してすぐ、、台本読みの続きをしなきゃならないのに、こんな長文を綴っている。


なんか… 忘れたくなかったから。


目が見えなくても、あんなに優しい顔ができるおじちゃんのこと。


こんな、たった一瞬で、昔のことがリフレインして大粒の涙が流れる自分がいた事。

(昔勉強したメソードみたいだなぁって)




みなさん…

くれぐれも、気をつけてね、いろいろと。。


命や視力がある事を当たり前と思わずに、日々注意しながら生きていこうね。






アラフォー女の12月のある夜のこと。


まとまりのないお粗末な文章を最後までお読みくださり、ありがとうございました。