83億分の1

最初に、誤解のないように書いておきたい。

これは日本を否定する話ではない。

日本で活動しているバンドやミュージシャンを否定したいわけでもないし、「海外の方が上だ」と言いたいわけでもない。

日本にも、長い年月をかけて自分たちの音楽を作り続けている素晴らしいバンドはたくさんいるし、尊敬しているミュージシャンもいる。

俺自身、日本でたくさんの人と出会い、助けられながら音楽を続けてきた。

だからこそ思うことがある。

最近、俺は日本の「シーン」と呼ばれるものの中に、自分の居場所を求めなくなった。

嫌いになった、というのとは少し違う。

たぶん、寂しくなったんだと思う。

音楽そのものよりも、

誰と知り合いなのか。

誰と飲んだのか。

誰に演奏してもらったのか。

誰のイベントに出たのか。

誰がSNSで持ち上げてくれるのか。

そんなことが、必要以上に大きな価値を持っているように見える瞬間が増えた。

もちろん、人との繋がりは大切だ。

俺だって、たくさんの縁に助けられてきた。

人との出会いがなければ実現しなかったライブもある。

海外に出られなかったこともある。

作品を作れなかったこともある。

だから「人脈なんて必要ない」なんて話をしているわけじゃない。

でも、縁は入口であって、実力そのものではない。

そこを履き違えてしまうと、俺は少し違うんじゃないかと思う。

誰かが20年、30年かけて築いた信用や環境を、「知り合いだから」という理由だけで簡単に使えるものだと思ってしまう。

それには違和感がある。

イベントを一本作ることだってそうだ。

会場を押さえる。

人を呼ぶ。

金を動かす。

責任を持つ。

何かあれば頭を下げる。

バンドの名前を背負う。

客との関係を作る。

その全部が、長い時間の上に成り立っている。

外から見ると簡単に見えるかもしれない。

でも、簡単じゃない。

誰かが何年もかけて築いたものを、最初から用意された階段みたいに使うことに、俺はどうしても違和感を持つ。

そして、それを簡単に成立させてしまう側にも、少し思うところがある。

「バンドやりたいです」

それは自由だ。

誰だって始めればいい。

年齢も関係ない。

経験も関係ない。

俺はそこを否定したいわけじゃない。

でも、本気でやるのか。

趣味でやるのか。

作品を作るのか。

どこまで続けるのか。

そのぐらいは、自分の中で持っていてもいいと思う。

趣味なら趣味でいい。

趣味で音楽をやることを俺は否定しない。

むしろ、楽しめばいいと思う。

でも趣味のバンドなのに、周囲にはプロのミュージシャン並みの力を求める。

有名な人に演奏してもらう。

長くやっているバンドに企画してもらう。

誰かの信用を借りる。

誰かの名前を使う。

その状態から始まって、それが活動の中心になっていく。

そこにはやっぱり違和感がある。

俺は、もっとみんな苦労してもいいと思っている。

客がいないライブがあっていい。

何人しかいなかった、なんて夜があっていい。

誰にも相手にされなくていい。

悔しくて帰る日があっていい。

こんなに頑張ってるのに何で誰も見てくれないんだ、って思う夜があってもいい。

やりたいことがあるのに金が足りない。

それもいい。

レコーディングしたい。

機材が欲しい。

ツアーに行きたい。

海外に出たい。

でも金がない。

じゃあ、どうする?

そこからだと思う。

どうやったら続けられるのか。

どうやったら作品を作れるのか。

どうやったらライブができるのか。

どうやったら金を作れるのか。

どうやったら人に届くのか。

どうやったらこの状況をひっくり返せるのか。

そこで考えればいい。

その答えを、誰かに教えてもらう必要なんてない。

自分なりでいい。

むしろ、自分なりの方がいい。

人の真似をしても構わない。

最初は誰だって何かを真似する。

でも、そのままでは終わらない。

自分の環境に合わせて変える。

失敗する。

また変える。

うまくいかない。

また考える。

そうやっていく。

ただ、一つだけ。

仕組みは知った方がいい。

ライブがどう成立しているのか。

音楽がどう流通するのか。

金がどこで動いているのか。

人がどう繋がっているのか。

レーベルが何をしているのか。

プロモーターが何をしているのか。

ライブハウスがどう回っているのか。

SNSがどう作用するのか。

契約とは何なのか。

まず、仕組みを知る。

仕組みを知れば、仕組みを壊すことができる。

壊すことができれば、自分で組み直すことができる。

そしてまた壊す。

また組み直す。

それを繰り返していく。

何度もやる。

失敗しながらやる。

遠回りしながらやる。

そうしているうちに、誰とも違う形になっていく。

俺はそれでいいと思う。

ナンバーワンじゃなくていい。

オンリーワンでいい。

誰かより上か下か。

どっちの方が有名か。

誰の方が客を呼んでいるか。

誰の方がSNSで数字を持っているか。

誰に認められたか。

誰のイベントに出たか。

誰と写真を撮ったか。

長い時間の中では、そんなものは本当に小さなことになる。

最後に残るのは、

自分にしか作れない音があるのか。

自分にしか歩けなかった道があるのか。

自分にしか残せないものがあるのか。

俺はそこだと思っている。

そしてもう一つ。

一つの小さな輪の中で、いつも絶賛されている必要なんてない。

いつも仲間に囲まれていなくていい。

いつも「最高」と言われなくていい。

毎回同じ顔ぶれで盛り上がって、自分たちで自分たちを褒め合って、その中で安心しなくてもいい。

もちろん、仲間がいることは素晴らしい。

応援してくれる人がいることもありがたい。

でも、それだけが価値になってしまったら違う。

その輪の外にいる人が、その音楽を聴いて何を思うのか。

何の関係もない人が、金を払ってまで見たいと思うのか。

そこは全く別の話だ。

俺は、少し遠くから見られているくらいでいいと思っている。

「あいつは何をやっているんだろう」

「あいつはどこへ行くんだろう」

「あいつは誰と同じなんだろう」

そう思われた時に、簡単に答えが出ないぐらいでいい。

誰とも同じ道を歩いていないなら、当然そうなる。

オンリーワンでいることには、少し孤独が付いてくる。

理解されないこともある。

誤解されることもある。

距離を置かれることもある。

時には、何もしていないのに変な目で見られることだってある。

でも、それでいいと思う

むしろ、遠くから見られているということは、一つの村の中に収まっていない証拠なのかもしれない。

昔の俺なら、そこが怖かった時期もあったと思う。

人の輪の中にいたい。

何かに属していたい。

自分の居場所を確認したい。

誰かと繋がっていることで安心したい。

そういう気持ちが全くなかったとは言わない。

でも今は違う。

全部を説明しなくていい。

全部を理解してもらわなくていい。

悔しいことがあっても、いちいち誰かに話さなくていい。

嬉しいことがあっても、大げさに証明しなくていい。

何かを始めるたびに宣言しなくていい。

誰かに認めてもらうために動かなくていい。

粛々とやればいい。

悔しい思いもする。

嬉しい思いもする。

失敗もする。

うまくいく日もある。

全部自分の中に積み重ねて、

最後に結論だけ残せばいい。

作品でもいい。

ライブでもいい。

結果でもいい。

生き方でもいい。

「こうなりました」

それだけでいい。

俺は長く音楽をやってきて、結局そこに辿り着いた。

簡単に評価されることより、長い時間をかけて自分だけの形を作ること。

その方がずっと面白い。

そして、その方がずっと強い。

だから俺は、もう日本で音楽をやらない、という話をしているわけではない。

そこは誤解されたくない。

日本でもライブはやる。

日本にも大切な仲間がいる。

日本で出会った人たちに助けられたことも、忘れるつもりはない。

ただ、日本のシーンの中で自分の立ち位置を作ることを、活動の目的にはしない。

誰と繋がっているか。

どの輪の中にいるか。

誰に認められているか。

そこに自分の価値を預けたくない。

俺は、もっと外を見たい。

もっと遠くを見たい。

SURVIVEという名前を知らない人間のところへ行きたい。

ドイツでもいい。

ヨーロッパでもいい。

アメリカでもいい。

アジアでもいい。

どこでもいい。

俺が誰を知っているかなんて、何の意味もない場所でいい。

SURVIVEという名前を初めて見た人間が、

曲を聴いて、

ライブを見て、

「これはいい」

そう思ってくれる。

それでいい。

そこでは、昔どんなイベントに出たかも関係ない。

誰と飲んだかも関係ない。

誰に可愛がられたかも関係ない。

誰と写真を撮ったかも関係ない。

曲がいいか。

ライブがいいか。

何か感じるものがあるか。

それだけでいい。

俺はそっちの方が、ずっと健全だと思っている。

そして、ずっと怖い。

何の保険もないから。

でも、その怖さがある場所の方が、俺は面白い。

昔からそうだった。

日本で知られているから海外でも通用するわけじゃない。

海外で名前があるから日本で通用するわけでもない。

場所が変われば、またゼロになる。

でも、そのゼロから始める感覚が俺は嫌いじゃない。

ゼロから始める。

また失敗する。

また悔しい思いをする。

また考える。

また作る。

その繰り返しでいい。

むしろ、それをまだやれるなら幸せだと思う。

世界には、およそ83億人の人間がいる。

83億。

想像もつかない数字だ。

その中で、自分なんてたった一人だ。

83億分の1。

それだけだ。

でも、その一人には一人分の人生がある。

一人分の時間がある。

一人分の失敗がある。

一人分の悔しさがある。

一人分の喜びがある。

一人分の音がある。

一人分の生き方がある。

その全部を使って、自分にしか作れないものを残せたなら、

それで十分なんじゃないかと思う。

ナンバーワンじゃなくていい。

83億人の中で一番になんてならなくていい。

誰かに勝たなくていい。

誰かを蹴落とさなくていい。

自分にしか作れないものを作る。

それだけでいい。

オンリーワンという言葉は、使い古されているかもしれない。

でも俺は、本当の意味でオンリーワンになるというのは、そんなに簡単なことじゃないと思っている。

誰かの真似をしているうちは、まだ違う。

誰かの評価を気にしているうちも、まだ違う。

誰かの輪の中にいることで安心しているうちも、まだ途中だ。

失敗して、

孤独になって、

壊して、

また作って、

遠回りして、

それでも続けて、

最後に振り返った時、

「ああ、結局この道は俺しか歩いてなかったな」

そう思えたら、

それがオンリーワンなんじゃないかと思う。

俺はそういう音楽をやりたい。

そういう人生でいたい。

怒っていることもある。

もちろんある。

腹が立つこともある。

何でそんな簡単に考えるんだよ、と思うこともある。

もっと苦労しろよ、と思うこともある。

もっと自分で考えろよ、と思うこともある。

でも、怒りだけじゃない。

寂しさもある。

本当は、もっと音楽そのものが大事にされる場所であってほしかった。

もっと、誰が知り合いかではなく、何を作っているかで見られる場所であってほしかった。

もっと、自分で苦労して作ったものが尊重される場所であってほしかった。

だからこそ、違和感を感じる。

だからこそ、距離を置きたくなる。

嫌いだから背を向ける、という話じゃない。

長くいたからこそ見えてしまったものがある。

長くやったからこそ、もう自分には合わないと思うものがある。

それだけだ。

そして今はただ、

「もう、ここだけじゃない」

そう思っている。

誰かに席を用意してもらう必要はない。

誰かの輪に入れてもらう必要もない。

誰かに紹介してもらわなければ始まらない人生でもない。

自分で作る。

壊す。

また作る。

また失敗する。

また組み上げる。

それを繰り返す。

そして最後に、自分だけのものを残す。

83億分の1。

たった一人。

でも、その一人にしかできないことはある。

俺はまだ、それを探している。

2027年。

SURVIVEは、もう一度そこから始める。