これは、ある時期の記録だ

少し長い

だが、削ることはできなかった

説明はしない

ただ、事実として残しておく


■第一章:何もかも、順調だった

あの頃、
全ては順調に進んでいるように見えていた

音も、環境も、
自分の立っている場所も

少なくとも、
外から見ればそう見えていたはずだ


周りには人がいた

仲間もいたし、
繋がりもあった

当たり前のように、
次の予定が決まり、
次の話が進んでいく


何も疑わなかった

疑う必要がなかった


音を出せば、
それなりに反応はあったし、
やるべきことも見えていた


だからこそ、
自分が立っている場所を
疑うことはなかった


だが今思えば、
あの時すでに
“何か”はズレ始めていた


ほんのわずかな違和感

言葉にするほどでもない、
だが確実に存在していた感覚


それを、
見ないようにしていただけだった


気づいていなかったわけじゃない

気づこうとしなかった


あの時の自分は、
まだ“守られていた”


だから、
壊れることを想像する必要がなかった


何もかも、順調だった


少なくとも、
そう思い込んでいた


■第二章:静かに崩れていく

違和感は、
ある日突然現れたわけじゃない


気づけば、
少しずつ形を変えていた


言葉が減っていく

視線が合わなくなる

空気が、どこか噛み合わなくなる


説明はできない

だが確実に、
何かがズレていた


最初は些細なことだった

「気のせい」で済ませられる程度の違和感


だが、それは消えなかった


むしろ、
時間とともに輪郭を持ち始めた


何かがおかしい


そう思いながらも、
それを認めることはなかった


認めた瞬間、
今までの前提が崩れることを
どこかで理解していたからだ


だから、
見ないふりをした


いつも通り振る舞い、
いつも通り音を出し、
いつも通り前に進んでいるつもりでいた


だが、
内側では確実に何かが崩れていた


それは、
一瞬で壊れるようなものじゃなかった


静かに、
音もなく、
削られていくような感覚だった


気がつけば、
もう元の位置には戻れないところまで来ていた


そしてその時、
初めて理解した


これは偶然じゃない


“流れ”が変わっている


だがその時点では、
まだ何も終わっていなかった


終わりは、
もっと後からやってくる


この時の自分は、
まだその深さを知らなかった


ただ、
確実に何かが壊れ始めていることだけは、
感じていた


■第三章:もう、何も残っていないと思った

気づいた時には、
もう戻れないところまで来ていた


それまで当たり前にあったものは、
ほとんど消えていた


仲間も、繋がりも、
音もなく崩れていった


理由は分からなかった


ただ、
確実に終わっていた


どこで間違えたのか

何が原因だったのか


考えても、
答えは出なかった


いや、

答えを出したところで、
もうどうにもならない場所にいた


外の世界は、
まるで別の場所のように感じられた


繋がっていたはずのものが、
全て切り離されていた


逃げ場はなかった


本当に、どこにもなかった


外に出ることすらできない時間の中で、
ただ時間だけが過ぎていく


音もない

人もいない


あるのは、
自分だけだった


何もしていなくても、
内側だけが削られていく


静かに、
確実に


このまま消えるのかと、
何度も思った


何も残っていない


そう思った


だが、

完全に消えたわけじゃなかった


消えなかったものが、
ひとつだけあった


それが何なのか、
その時はまだ分からなかった


ただ、

それだけが、
残っていた


■最終章:音はまだ鳴っている

あの頃、
俺は表では“戦っている側の人間”だった


ステージに立てば、
それなりに名前も通っていたし、
海外にも出ていた


強いと思われていた

少なくとも、そう見えていたはずだ


だが現実はどうだったか


気がつけば、周りのほとんどは消えていた


仲間も、繋がりも、
当たり前のように存在していたものが、
音もなく離れていった


それでも、
最後まで残っていた存在があった


逃げ場はなかった


本当に、どこにもなかった


外に出ることすらできない時間の中で、
ただ自分と向き合うしかなかった


そこで初めて理解した


“強さ”なんてものは、
環境が整っている中で成立していただけだったと


それでも、
完全に崩れなかったものがある


音だ


何もかもが途切れたあの場所で、
唯一、頭の中で鳴り続けていたものがあった


理由なんてなかった

意味もなかった


ただ、消えなかった


それだけだった


思い出すたびに、
何度も自分を削られるような感覚になる


だが同時に、
あの時間がなければ、
今の自分は存在していないとも思う


あの時、
多くのものを失った


だが、

何も残らなかったわけじゃない


残ったものだけが、本物だった


だから今、
俺は音をやっている


もう、逃げ道としてではない


これは証明だ


俺がまだここにいるという、
ただそれだけの証明だ