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ろくろに湿台(しった)をすえて
************ 借窯徒然 ************
栃木県宇都宮市にレオン自動機という会社があります。なんだか自動車部品を作っている会社の様な名前ですが、実は大福などを作る機械を製造している会社です。
昔、大福は1つ1つ職人さんが手で餡を皮に包んでいました。しかし、それは大変な作業。何とかならないかと1963年にこの作業を機械化させる包餡機を作り出したのがこの会社で、その技術は進みに進んで、いまや作れるのは大福だけでなく、この手の機械の世界シェアはとてつもない物だとか。(細かい数字忘れました)
そもそも大福は皮(餅米と白玉粉)を適量とって丸めて広げて円状にした物の上に餡をポチッとかドカッとか乗せて皮を引っ張り上げるように包んでてっぺんまで来たらつまんでひねるようにして完全に口を閉じてその部分を下へとひっくり返せば出来上がり。
一方機械なら皮と餡をセットしてスイッチを入れればポッコンポッコン。大きさ、餡の量も自由自在で全く同じものがポッコンポッコン。
以前伝え聞いた事ですが、手包みですと最後ひねったところがヘソとして残っているのに対して機械ではそれが無いとの事。だから大福を食べる時に裏側を見てみればそれが手包みか機械かは一目で解るとか。
もっとも、今は手作りとかにこだわる人がいるので機械でもヘソを作れるようになっているかもしれませんね。
食品製造の自動化はこれに限らず全ての分野で目を見張るものがあります。
いや食品だけでなく、多くの製造業でミクロン単位の同じものがポコポコ。自動車部品なんか規格許容誤差が±10μだとか。どうやって作っているんでしょう。
では焼物の世界ではどうでしょう。
実は焼物にも機械のこちらに粘土と釉薬をセットしてやれば向う側から完成品が出て来るという完全全自動ラインがあります。
セットされた粘土は所定の硬度に練られ、規定量の大きさに切られた後、石膏型を利用した成型機で形が作られ、乾燥―素焼きラインに乗せられ、吹き付けもしくは浸しに因る施釉、焼成ライン、完成。
施釉時に模様や文字を入れるのだってローラー状の印刷機や、丼の内側などの球面はシリコンのブニブニを使って印刷。ライン間の製品移動はロボットアーム。本焼成の棚板も組んじゃう。
益子にもここまで完全ではありませんが、その製造がライン化されているところがあります。それは「つかもと」の釜っこ製造工場、あの峠の釜めしの釜を作っている工場です。
その工程は、
・土練機で練った棒状の粘土を機械にセット。
・規定量に粘土が切られる。
・それが石膏型に投入され自動成形。
・型の上部が外される。(型はつばから下と上の2つから出来ています。)
・脱型。
・縁を均して積み重ねて乾燥工程へのコンベアに載せ換え。
・乾燥したものを1つずつ施釉機にセットして施釉。
・3個または5個積み重ねて焼成台車に積みこみ。
・トンネル窯へ搬送されて焼成。
・窯出しラインにて検品しつつ窯出し。
といった流れです。
「つかもと」の場合はまだ完全なる無人化工場ではなく随所で人の手による作業が行われていますが、成形は完全機械化。そして同じ大きさ、重さの物が次々と作られています。(1日1万2千個)
一方同窯元ではろくろを使って1つ1つ手作業で焼物を作ってもいます。(も、ではなく、こちらが本来です)
むろん、施釉も手作業なので、出来上がりは1つ1つが微妙に違う物になります。
でも、これを「手作りだから仕上がりに違いが出来てしまうのは仕方が無い」と片づけてしまっている訳ではありません。目指しているのは寸分違わぬ全く同じものです。
しかし、それは本当に大変。
ろくろ成形時に1回余計に形を整える手を加えただけでも品物が余分に手水(滑りを良くするため手につける水)を吸ってしまって乾燥収縮が大きくなってしまったり、絵付けでもほんのちょっと息継ぎのタイミングがずれただけで筆圧が変わってしまって線の太さ濃さが違ってしまったりします。
もっとも、世間様ではその微妙な違いを手作りとしてありがたがってくれるので、それに安座してしまって「まあ、いいか」という気持ちが湧いてきてもしまい(私の場合)、かなりバラケタ物を作ってしまって、あとはお客様に好みの物を選んでもらおう、という逃げに走る事もしばしば。
以前「手作りとは同じものは2つと無い、では陶芸教室。本当の手作りは、同じものは2つと無いが違う物も無い、である」と書いておきながら(いつだったかな)困ったものです。
かように、手作りが目指すところは完全に同じ物の生産で、それをいともたやすく実現してくれたのが機械成形です。
その決め手となるのが型。主に石膏型です。
「つかもと」には手作り工程と自動機械作り工程の他にもう1つ、機械ろくろ成形工程があります。
これは前者2つと違って見学コースからは外れたところにあります。(隠している訳ではありません。たぶん)
機械ろくろとは回転台に石膏型をセットして粘土を投入し、備え付けられた刃を押しつけて成形するものです。
これですと型と刃を交換すれば様々な物が同じ大きさで作れます。
工程は
・石膏型を機械にセット。
・練った粘土の塊から適量をむしり取って型に投入。
・手である程度伸ばして大まかな形にする。
・刃を当てて内側を仕上げる。
・型からはみ出した余分な土をへらで切り取る。
・石膏型ごと機械から外して次の型をセットする。
といった具合です。
この機械ろくろは手ろくろと自動ろくろの2種類があって、自動ろくろの場合は刃と余分な土を取るへらが機械仕掛けで下がってくるので、手ろくろの様に人力で刃の付いたレバーを押し下げてその力加減で品物の厚みが変わってしまうという事は無いのですが (むろんストッパーが付いていて完全に降ろせば規定の厚さになるようになってはいるのですが、いくら鉄製とは言え力一杯やればレバーがたわみます)、初めに手で荒伸ばしを行わなくてはならないのは同じで、回転している型の中に手を突っ込んでもたもたしているとそこに刃が降りて来てちょっと怖い機械です。
さて、この機械ろくろで造った品物は機械作りなのでしょうか。
ちなみに石膏型を使う成形方法には型起こしという物もあって、石膏型に薄く切った粘土板(たたら)を押しつけて板皿などを作る物もあります。これは立派に手作りに分類されています。
すると、機械ろくろ製品も立派に手作りですよね。確かに自動ろくろではかんじんの部分は自動化されていますが、それ以外は人力で、人の感覚に因るところが多いですから。
逆に言えば、手作りの代表とも言える職人が扱うろくろ。あれだって石膏型が無いだけで、回転する機械を使う機械作りで手作りではない事になります。
これらは手作りにおける大量生産の術の1つです。
さて、この機械ろくろによる成形はこれをやってしまえば形の完成とはいかないのです。
機械ろくろで造った品物はしばし乾燥させてから脱型します。
乾燥させるので当然品物は収縮します。
その時高台部分があまりにもきちっとした形だと壊れてしまいます。
なので石膏型の高台部分はその立ち上がりが大分緩やかな、つまりいたずらに大きいものとなっています。
ですから脱型後高台の余計な部分を削る必要があります。
また、縁も切りっぱなしのとがったものになっていますのでその部分も軽く削るか濡れスポンジを当てて丸くしてやらなければなりません。
更に、皿や碗の様に縁が広がっているものはこれだけで済みますが、湯呑などで下が膨らんでいるものはいくら乾燥収縮したとしてもスポッと抜く事は出来ません。くびれている部分に膨らんでいる部分が引っ掛かってしまいますからね。
この様な形の物は割型を使います。
割型は型を縦にふたつに切った形をしていて、成形時はそれを合わせて1つの型とし、取りだす時はそれを左右にパカッと開きます。
すると、取りだした品物には型の継ぎ目の縦の筋が付いてしまっています。型が摩耗して来るとその筋はそれに従って太くなります。
これはやはり削り取らなければなりません。
この工程は機械ろくろによる成形よりもよほど時間がかかります。人手で言えば、機械ろくろ1人に対して、削り修正2人くらいでないと追いつきません。
なので、絵付け体験に使う品物では高台部分の削りを省略したり、湯呑でも割型を使う必要のない切立の物にしたりして手間を省きます。
そして、やたら手作りがもてはやされた頃には(今でもそうかな?)高台の修正削りをする際に高台部分だけでなく胴にも少しかんなを当てて削り目を付けていかにも手作り風にするといった事も行われました。(後に削り目の付いた型も現れました)
ここまで来れば型ろくろの品物も立派に手作りですね。1つ1つ作るろくろ製品との差はほとんど解らなくなりました。
技術の進歩は素晴らしいのですが、逆にろくろで綺麗にびしっと揃ったものを作ると「型で造ったのではないか」「面白くない」と言われる様に。
結果、ろくろはそろえる必要が無くばらついていてOKじゃん、となり、基本技術が衰えてしまうのではないかと心配なのです。
手作りもてはやされ全盛の頃、とある養鶏場で「手作り卵」と看板に書かれていた事がありました。作り物の卵?
既定の量と大きさにカットされた食材と調味料が届いて、あとはそれを指示通りに煮るなり焼くなりするだけ。手作り料理?
ホント、手作りって何なのでしょう。
--第45号(平成25年10月3日)--
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