ж 8 ж 車輪も使い様で角が立つ
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もう二十数年前の事である。母と弟とで水戸線を利用した事があった。
その頃の水戸線では電車、古い客車、真岡線乗り入れのディーゼルカーと様々な車両が使われていた。
その時乗ったのは古い客車列車であった。よくは覚えていないが4両ぐらいつながっていた様だ。
列車は空いていてゆっくり座ることが出来た。
めったに乗ることが出来ない客車列車に嬉しく思っていたのだが、いざ走り出すと異常な振動が伝わってきた。
「ダンダンダンダン・・・・・・」という音と共に縦に揺れたのだ。
母が脱線しているのではないかと不安がるので他の車両を見に行ったがどの車両もその音を発てて揺れていた。
当時はあまり鉄道の知識も無かったがたまにこの様な音をたてる車両があるのは知っていた。
それで「脱線はしていないから大丈夫だよ」とは言ったものの母の気持ちが伝染したのか私も不安な思いのまま終点までの時間を過ごしたのだった。
この現象はフラットと言って、本来まん丸であるはずの車輪の一部が平になっていて起こるものである。
発車していく列車や通過列車の中で一両だけこんな音を立てながら走っていくのを聞いたことがあるという方もけっこういらっしゃるのではないかと思うが、まさにそれである。
なぜこの様な現象が起こるかと言うと、ブレーキをかけた時に車輪がロックしてしまい、そのためレールとの摩擦で車輪の一部が削れてしまうのが主な原因だ。
列車編成の中で1両かそこらだけフラットができているというのは電車列車に多い。
電車列車にはモーターや速度制御のための器械を積んだ電動車とその車両に引っ張られたり押されたりして動く付随車と言われる車両の2種類が混ざり合っている。
フラットが出来るのは主に付随車の方で、いろいろな器械を積んで重い電動車がしっかりとレールにふんばっているのに対して、軽い付随車は電動車に比べてふんばりが効かないからだ。
更に先頭や最後尾に連結されてる付随車よりも電動車に挟まれた付随車の方がフラットが出来やすい様だ。これは重い電動車に挟まれていて、ブレーキをかけた時その力のバランスがとれていないと、列車編成の歪がその軽い付随車に集中して車両を持ち上げるような力が働き、よってなおさらふんばりが効かなくなって車輪がロックしやすいのだ。
たかーい料金を払わなくてはならないグリーン車はそのほとんどが付随車でしかも編成の真中、つまり電動車に挟まれている場合が多い。
だからグリーン車にフラットが出来る確立は高い。
フラットが出来ているとその音と振動で乗り心地はすこぶる悪くなる。せっかく高い料金を払ってグリーン車に乗ってもその様な状態ではたまったものではない。
電車の車輪は直径86cmの物が多く使われている。
時速100kmで走ったとすると秒速約27m、86cmの車輪の円周は約2.7m、1秒で車輪は10回転する。
つまり1秒間に10回の振動があるのだ。
昔、窓の開かない特急列車などでクーラーが故障した済、他の車両に案内するが、満員などでそれが出来ない場合は、特急料金の半額払い戻しと言う制度があったと思う。
今もその制度があるのかどうか知らないがあったとすれば、グリーン車においてフラットが発生していた場合、グリーン料金半額払い戻しになってもいいぐらいの乗り心地になる。
はじめに書いたような客車列車はそれぞれの車両の重さはさほど違わないので、1両だけフラットが出来ていた場合は、その車両だけブレーキが特によく利いてしまったという事が考えられる。
列車全部にフラットが出来ていた場合は編成全部の車輪がロックしたということで、それは何らかの原因でそれほどのブレーキが使用されたということであろう。
一度出来てしまったフラットは自然には直らない。
工場に入れて全ての車輪をまん丸に削りなおさなければならないのだ。軽微なフラットならば定期点検の時にでもということも可能であろうが、前述の乗り心地など、サービスの面からしても、すぐに修理したいところである。そしてそれは余計な支出となる。
だから軽い気持ちで列車が車輪をロックさせる様な非常ブレーキをかけるに到るいたずらを行った場合、たとえ人的被害が出なくとも、車両の修理費などの莫大な損害請求が当人に求められるのは、当然であろう。よって、くれぐれもその様なことはしない様に。
ところで、列車を利用するときはなるべく乗り心地のよい車両を選びたいものである。
電動車はモーターや冷却機の音が騒がしいし、客車などでも発電用のエンジンが付いている物もある。この様な車両は駅で停まっている時から解るが、フラットが出来ているかは走り出してみないと解らないから始末が悪い。
つまらない趣味ではあるが、列車の音を録音したいときなどにフラットに当たってしまうとぶち壊しだ。
すべるように走っていた車両に突然フラットが出来てしまうという事もある。私もその瞬間を一度だけ体験したことがある。この時は録音はしていなかったが・・・・・・
それはある雨の日、東急田園都市線での事であった。あの線で使用している8500系という車両は走っているとき、つまりモーターが廻っているときはとてつもなくうるさいが、モーターが止まるとすこぶる静かになるという車両だ。
ある駅に止まろうとしていた。速度が落ちてやがてモーターの音が止み、しんと静かになったのだが窓の外の風景はすーと流れていく。
雨でスリップしたのだ。
すぐにかくんと停まった後停車位置を直したのだが、バックしたのは車両半分ぐらいだったから滑ったのは、10mぐらいであったのであろう。
それでもしっかりフラットが出来た。出来たてフラットの振動はかなりのものであの母と乗った列車を思い出したものだった。
車輪の一部が削れるフラットでもあれだけの振動があるのだから、車輪の一部が欠けてしまったら相当なものなのであろう。
以前、実際にその様なことが起こったことがある。脱線には到らなかったが、乗客はさぞかし怖い思いをしたのではなかろうか。
また、新幹線が、モーターの故障かなにかで車輪をロックさせたまま火花を散らしながら突っ走ってしまった事がある。この時もさぞかし盛大なフラットが出来たのであろう。
ところでこの様に運転手のミスや車両点検のミスでフラットが出来てしまった場合、やはり始末書をとられるのだろうか。
--第8号(平成14年4月6日)--
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