<五月雨を集めて涼し最上川                                 全然OK>

ж 1 ж 伊豆湯河原温泉

 投稿日時 >2008/6/5(木) 午前 10:15   書庫 大浴場   カテゴリー ノンフィクション、エッセイ

ナイス0

 


 温泉に行きたいな、と近くの旅行代理店で手配できたのが湯河原温泉。正月帰省の前に英気を養っておきたいという奥さんの希望だ。
 ゆえに特に場所にこだわるものではなく、しかも超繁忙期の直前予約だったのでここしか空いていなかったというのが実状。まあ、神奈川県では箱根に次ぐ有名温泉地でもあることだし良かろうと。
 出発前に軽く下調べと(順序が逆。普通は予約前だな)検索すると予約した宿は伊豆湯河原温泉でヒット。もっとも、場所等は送られてきたパンフレットで確認できていたのでさらっと眺めるだけの下調べに終わって、湯河原の頭に伊豆が付いている事については「伊豆に近いからかなー」と深く疑問には思わなかった。
 常磐道から首都高、東名高速と車は順調に進み、実家最寄の横浜町田ICを一気に通過。厚木から小田原厚木道路へ。この道は神奈川県中央部から確実に海へと向かうのになかなかその青き姿を見させてくれないという海無し県人にはちょっとイライラさせられる代物である。
 いよいよ最後のトンネルを抜ければ一気に海辺の道、という辺りまで来てそのイライラの矛先が別の方へと向けられた。急に車が増えてきたと思う間もなく「伊豆方面」の車線は「あれ?ここ駐車場?」となってしまったのである。車が増えてきたのではない。数少ない車ですらさばけないほどに目的方面の道の進行速度が落ちていたのである。
 ガラガラの箱根方面への分岐を過ぎてやっとその全貌をあらわにし始めた海を飽きるほど眺め、いく本もの新幹線が気持ち良さそうに通過するのを見送ってやはり大渋滞の西湘バイパスとなんとか合流すると石橋。やっと流れ始めた。がそれもつかの間。また渋滞。たまらず真鶴道路へとは進まず旧道に入った。
 旧道はさすがに車は少なかったがその道幅は狭く速度は上がらない。でもこの道はそれで良い。相模湾を見下ろす快適なドライブだ。途中休憩がてら立ち寄ったミカンの直売店ではまだ年も明けないというのに梅が咲いていた。
 そんなこんなしているうちに日は箱根山の向こうへと没してしまい、すっかり夜の町と化した湯河原駅前を過ぎてやや進んだところから狭い道を入りこめば目的の宿。明るいうちに着けると思っていたのだが、もうその宿の全貌すらおぼつかない。
 こじんまりとしたロビーから階段をペタペタと3階まで登る。おやっ、エレベーター無いの?
 通された部屋は家族4人で適、という広さであったがなんだかうすら寒い。この季節は大抵部屋に通されるとその暖かさにほっとするものだがそれが無い。手際が悪いのか暖房の故障かと思ったが案内してきたちょっとお年を召したおばさんは何事も無い顔をしている。暮に梅が咲く暖かい地方なのでこれが当たり前なのであろうか。もうひとつ、おやっ、と違和感を覚えたのが宿の人達が皆比較的高齢である事。そして普段着である事。ホテルと名は付いているが旅館だなー。
 窓の外を見ると灯りがほぼ無く真っ暗だ。海かな。
 ともあれ早速温泉。大浴場というほど広くは無いが明るくきれいな浴室に、ありました。お湯がそれこそ湯水のごとく滝となって流れ込んでいるのにその縁からは全くあふれ出ていない不思議の泉が。
 湯河原温泉の泉質は弱食塩泉ということだが、この弱が曲者。見た目は単純泉と変わらないし臭いも無いから舐めてみないと解らない。でもこのお湯を舐めてみるのはちょっと抵抗あり。もちろん湯の注ぎ口からあふれ出るものにしても全述のごとくゆえ。
 しかし手足をおもいっきり伸ばせるのはやはり気持ち良かった。子供たちもおおはしゃぎ。まあ、他に客もいない事だし今回はヨシとしよう。ン?繁忙期の入浴時間帯だぞ?
 部屋に戻ったらすぐ食事が運ばれてきた。海の近くなのでかなりの期待をしていたが……。この季節にしてはずいぶん安い料金だからなー。
 あたりに温泉街らしいものもなく館内にもそぞろ歩きをするようなところは無いので早々に就寝。
 明けて20世紀も残り2日となった。今日も快晴。窓の外には大海原、ではなく家々が並んでいた。
 外が明るくなった分浴場はその輝きを失っていた。お・い・し・い・干物付きの朝食を済ませぐだくだしてから10時ごろ宿を出る。どうにも満足感が無い。奥さんも同感との事。
 宿のすぐ近くに立ち寄り湯があった。寄っていくかと協議したが「今1つ」で意見が一致。川沿いに進み温泉街らしい雰囲気の所で一旦駐車場に車を入れそぞろ歩き。目的は「ままねの湯」。ここはかなり本格らしい。
 散策気分で路地を進めば、ありました、なんともいいたたずまいの、子供は1歩引くような「ままねの湯」。
 よーし、これで欲求不満解消、と歩を進めると悲しいかな「本日休業」の文字。本格ゆえに正月は休んでしまうのか?
 とぼとぼと車に戻り、はやくおじいちゃんのうちへいこうよ、と騒ぎ始めた子供達をなだめつつもうひと勝負。川沿いの老舗を感じさせる大きなホテルに飛びこんだ。立ち寄り湯の看板は無い。
 勝負の結果は、「立ち寄りはできますが、今は掃除中なので入れません」。完敗だー。
 フロントの人にお湯について尋ねてみた。
 「うちは源泉100%です。」
 昨夜の宿や件の立ち寄り湯については、
 「まあ、いろいろありますから」と口を濁した。ボロ負けだー。
 仕方なくハンドルを東へ。真鶴半島で遊んで魚料理屋で昼食。刺身は見事であったが値段も見事で、癒されるはずであった温泉でためてしまったフラストレーションを吹き飛ばすには至らなかった。

 さて、実家へ帰り通ってきたコースの復習にと地図をまじまじと見ていたらとてつもない事を発見してしまった。なんと湯河原温泉はその真中に県境が通っていたのである。そして私たちが泊まった宿はその線の南側。つまり神奈川県の名温泉に行ったつもりが静岡県の温泉に浸かっていたのであった。
 冒頭に書いた「伊豆」の意味はこれだったのである。つまり伊豆湯河原温泉は湯河原温泉でも静岡県に属する部分を言うのであって泉地区がそれに当たる。時刻表の旅館案内でも 湯河原・泉(静岡)となっていた。
 電話番号は属する熱海市の市外局番ではなく湯河原町のものであったし、領収書にも住所が書かれていなかったので全く気づかなかった。
 行政区が違えば当然入湯税はそれぞれ所属するところに納められるのであろうが、金額は同じだったのか、温泉自体も静岡県側でくみ上げているのか、神奈川県の源泉から引いているのか、温泉街の整備に使われる税金はどの様に振り分けられているのか、旅行協会もそれぞれであるが地区違いの宿の案内もしてくれるのか、多いに悩みが増えて余計欲求不満になった。

 地図を見るのが苦痛になってきたので新聞やチラシを見ることにした。と、チラシの中に「万葉の湯」というのがあった。これはまだ開業準備中で立ち寄ろうにも立ち寄れなかった湯である。
 「ふーん、こんな遠くまで開業のチラシを入れるのか」とよく見れば「東京湯河原温泉」とある。えっ、今度は静岡ではなく東京?。で、よくよく見ればなんと湯河原から源泉を毎日タンクローリーで運んでいるとの事。なんの事は無い。本物の湯河原の湯に浸かりたければ湯河原でウロウロせずここに行けば良かったのである。実家からはわずか10分。今日の苦労はなんだったんだー。
 でもこれ神奈川県の温泉と言えるのか?

--2001/12/8--
 (加筆修正)

猫と鉄道 トップ → http://www3.yomogi.or.jp/skta1812/main/index.html

猫と鉄道  書庫  → http://www3.yomogi.or.jp/skta1812/syoko/syoko.html

 コメント(0)