武蔵野の夜明けは
太古の時代は海だったので
太陽は海から昇ったはずだが
今は大地から太陽が生まれて始まる
風が耳元でしきりと何かささやくのだが
耳を手でおおうほどの冷たさはない
夜明けから時間が経ち
光の恩恵は矢川にも届き始めた
川面に射す光が
幾何学模様を描いている
さざ波が光る
初夏の矢川はどこもかしこも
輝きに満ちている
夢を紡ぐような朝だ
白く咲いているのは野バラだろうか
何も手を掛けずとも美しく咲いている
もっと近くで見たいのに
生憎と咲いているのは向こう岸だ
川を歩いていくいくらいしか
どうやってもたどり着けそうにない
手が届かない美しさがある
川底の砂に絵を描くのはカワニナだろう
カワニナは蛍の餌になる
この辺りにも人知れず
蛍が飛ぶのかもしれない
命の営みに満ちて
矢川の初夏