頭に何も思い浮かばなかった。
ライヴだと言うのに
何にも降りてこなかった。
でも
焦りもなかった。

着物でさえ
何を着るか
決めかねた。

そういう時はいつもと違う事をしよう。
帽子をかぶる事にする。
必然的に帽子と合う着物を選ぶ。
困った時のお気に入り。
帽子にこの着物なら
赤い半襟がいい。
引き出しをあさって
赤色の端切れを見つける。
ギリギリ、半襟になる長さ。

時間は間に合うのか?

チクチク。
縫い付ける。
16時半には家を出たいのに
半襟をつけ終わったのが
16時少し前。
慌てて化粧をして
髪の毛をセットする。
16時15分。

急いで着物を着る。
黒い着物に黒と赤色の帯。
半襟と帯あげは赤。

1度着てみたものの。
なんか、違う。
帯あげはやっぱり水色で!

帯だけ締め直す。

16時40分。
荷物をまとめて車に乗り込む。

それでも
何をやるのか
決まらない。

ギターマンにつく。
音合わせが始まる。

そうだ。

どこかの女の物語り。
そう。
この間は男の物語りだった。
今日は女の物語り。

キーワードになる言葉を
スマホに打ち込んでいく。

夫。
お気に入りの可愛い部下。
女。
結婚して20年以上。
職場恋愛。
噂話。

どこにでもある
誰にでもある
つまらなくて
くだらない
日常の大半をしめるあれこれ。

ステージの上で
即席で話を作り上げながら
いくつかの詩をおりまぜる。
さっき聴いたばかりの歌の歌詞も
ついでに組み込んでみる。

物語りの最後に。
思い付いた曲のタイトルを呟いた。
「THE ROSE」

弦術師aokiがその言葉を受けて
ROSEを弾きはじめた。