ふと

思い出したこと

 

私の母は

おしゃれな人だったけど

少し独特だった

こだわりも強かった

 

 

母のお気に入りに

ダークブルーのコートがあった

 

フェイクレザーのような

生地だったと思う

 

スタンドカラーで

マントのような

ボリュームがあった

 

通勤の為

バス停までの距離を

それを着て

自転車で走る

 

帽子も好きで

よくかぶっていた

 

途中ですれ違う小学生に

こう呼ばれていたらしい

 

「魔女のおばさん」

 

 

 

 

 

勤務先は交通の便が

悪いところで

バスに乗り遅れると一大事だった

遅刻しないよう

母が通る時間はいつも同じ

 

それを通学時間の

目安にしていた子供たちが

いたようで

ある時

「魔女のおばさんが来たから

 もう行かないと!」

と騒いでいる声を

たまたま耳にしたらしい

 

母は嫌がって

気にしていたが

それでも

そのコートは

ずっとお気に入りだった