東京都八王子市。
東京都にあるというだけで少し都会的なかんじがありつつも実際は市街地を除けばわりと田舎町なところ。そんなこの街で生まれ育った僕は今日も夏休みだというのに真夏の太陽が照りつける中で部活動に勤しんでいる。いや正確には照りつける日差しを真っ向から受け止め続けている体育館という名のサウナ地獄の空間の中でだ。
何の経験もない僕が器械体操を始めて3年目の夏。きっかけはただバック転、バック宙なんかができるようになったらジャニーズとか入れるかなぁなどという不純な動機で入部した。実際僕の通うこの由井ヶ丘中学校はOBにあのタッキーがいたらしい。しかし現実はそう甘くないもの。運動神経皆無な僕がようやく大会に参加できるほどの腕前になったのはこの夏の大会が初めて。しかも最初にして最後の引退試合だ。
練習を終え、水分を求め部活仲間らと体育館の外に出る。夕方の心地よい風が身体を伝う。水筒に入れておいたスポーツドリンクが干からびた身体にしみわたっていく。至福のひと時だ。
「サワチン、今日は技のキレが良くなかったな。どしたん?」
ちなみにサワチンとは僕につけられたあだ名。部のエース格のケン坊が僕に問いかける。
「いやいや、ケン坊から見たら俺なんていつだっていまいちだから…」
ケン坊は1年の時から即戦力ルーキーとして大活躍。市内大会だけにとどまらず多摩地区大会No.1、都大会でも個人総合TOP3に入る全国レベルのすごいやつだ。ただ一つ残念なのは会話の事あるたびに下ネタを連発するところだろう(笑)。
「そんなことねーよハハハ。でも大会も近いからな、最後の団体戦ぜってー勝ちたいから頼むぜサワチン○!」
ちなみに○には「コ」が入る(「ポ」でも可)。
「その呼び方やめてマジで。まあうちにはケン坊とノリ、大ちゃんもいっから団体戦は余裕でしょ。俺は足引っ張らない程度に無難に行くから。」
「おいおい、俺ら頼みかよ。」
とノリが言う。ノリは小学校のころからの友達で僕と同じ体操初心者だったのだが、持ち前の運動神経で1年の終わりには団体戦メンバーに選ばれるほど、まあ僕とは全く違うタイプのいわゆる「何をやらせてもカコイイ男」である。
そんな話をしていると体育館から僕らと同様部活を終えた女子体操部の部員たちがやってきた。
「あっ、男子はもう終わってたんだ。今日も暑かったね~。」
そう声をかけてきたのは女子体操部の一員「坂上 一葉(さかのかみ かずは)」。ケン坊と同じくこちらは女子体操部のエース。容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群と3拍子揃った「浅倉南」的な女の子だった。今日もレオタード姿がまぶしいよ坂上。
「サワチンお疲れ~♪調子どう?」
同じく女子体操部の「鷹野 美沙(たかの みさ)」が僕に問いかける。鷹野は何の偶然か3年間クラスが一緒で、部活動以外のところでも仲が良かったりするボーイッシュな女の子だ。
「うんまあボチボチ。鷹野はどうよ。」
「私はまあいつもと一緒だよ。まあでも最後の大会だからね。そろそろ真面目に練習しとかないと顧問がうるさいからな~。」
「そうそう、美沙はマイペースなんだもん。男子からも言ってあげてよ。」
と坂上が言う。そんな部活話に盛り上がっている中、鷹野が切り出した。
「そう言えば明後日の花火大会、男子も行くでしょ?その日は部活も午前中で終わりだし。大会前の最後の息抜き、体操部同士で行かない?」
「あっそれいいかも。女子だけで行ってナンパとかされても困るし。男子が一緒にいてくれれば大丈夫だよね。」
いやいや、こんな田舎の中学生ごときでナンパされるのは坂上さんくらいのもんですから…。
「まあ俺らは別にいいよ。その代わり帰りに俺が襲っちゃうよ♪」
「………。」
…ケン坊、女子全員全力でドン引きだよ…。
「…ま、まあ中学生活最後の花火大会だし、由井ヶ丘中体操部みんなで楽しもうぜ!」
ノリが無理やり話を戻してなんとかその場は落ち着いた(と思う…)。
正直、女子と一緒に花火大会に行けることで僕のテンションはかなり上がっていた。しかしこの時はまさか花火大会の後にあんなことになるなんて知る由もなかったのだが……。
今回はあまり長くならないように頑張ります。
猫のパパ