TOVEトーベ  ムーミンの原作者 | JINのブログ

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きままにいろいろ…

ムーミンの原作者トーベ・ヤンソンの伝記映画です

立川に行ったついでに観たのですが、それほど期待もしてなくて

まあ、よくある伝記物なんだろうな、と

ムーミンを、なんとなくファンシーで可愛いアイテムとして

捉えてるファンが、ほのぼの映画を予想して行くと

仰天するかも知れません

面白かったです、観てよかった

親の期待に背いた人には、結構刺さる映画だと思いました

 

●ネタバレしますので、ご注意ください

 

 

画家を志すトーベ(アルマ・ボウスティ)は、彫刻家の父との

確執を抱えながら、妻ある議員アトス(シャンティ・ローニー)

との恋愛や制作に没頭していた

ある日、富裕層の人妻ヴィヴィカ(クリスタ・コソネン)と出会い

恋に落ちる

ヴィヴィカは舞台の演出家であり、ムーミンを書き溜めていた

トーベに演劇化を持ちかける

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観ていて、少女漫画家の萩尾望都さんを思い出しました

萩尾さんも、今では漫画界のたいへんな巨匠ですが

ご両親からは

「そんなマンガなんて下らないもの描いて」と長らく、まったく

認められずに苦しんだそうです

トーベの場合、母親は理解があるけど、父親には人物画さえ

芸術ではないと否定され、ムーミンの絵なども当然

見下されています

 

芸術家でありたいと強く願いながら、芽が出ない

お金もないトーベ

シャイで人見知りのようでいて、激しく大胆なところもあるトーベ

彼女はパーティで出会った議員アトスを、自分から誘います

「サウナに入らない?」(さすが、フィンランド!w)

 

不思議な魅力…

主演女優アルマ・ボウスティは、そうしたトーベの矛盾した

繊細さを、くるくる変わる表情で、絶妙に見せてくれます

 

自分のイラストが採用され招かれた屋敷で

背の高い人妻ヴィヴィカと知り合うトーベ

二人は一目で惹かれ合い、恋愛関係へ

女性と寝たと打ち明けられて驚いた恋人アトスは

「君は自由を試したんだね」といい、トーベもうなづきますが

実は何かが決定的に変わってしまったようでした

離れてゆくと思ったのか、アトスは妻との離婚を進め

トーベに求婚しますが拒否され、その後、ヴィヴィカの浮気に

傷ついたトーベが動揺して結婚を承諾したりしますが

もう情熱は終わってしまっていた

どうしようもないことを悟って、朝のベランダで並んで立つ

二人の背中は、切なかったです

 

トーベの前に「突然舞い降りた、美しい竜」

しかしヴィヴィカはお金持ちの自由人

フィンランドを出てパリに行くと、ますます拍車がかかります

トーベ以外の女性にも、次々手を出していく

 

ムーミンの舞台は成功しますが、ヴィヴィカとの関係は終了

やがて、ムーミンは新聞に掲載され、子供達に人気となり

トーベに経済的余裕をもたらす

 

初めて旅したパリでの、ヴィヴィカとの思いがけない

再会と別れ

そして、新しい女性トゥーリッキとの出会い

画家になる夢に縛られ、自分の世界を自分で狭めて

きたことに気づく…

亡くなった父との和解

 

窓から吹き込んだ強い風に吹かれるトーベの横顔は

様々な抑圧から解放された真の心の自由を

感じささせて、美しかったです

 

LGBTに対する社会的偏見と戦う映画ではありません

一応当時は、フィンランドでは同性愛は禁止されていた

ようですし、二人も手紙の差出名を怪しまれないよう変えたり

隠語を使ったりして気は使っていますが

この映画からは、社会制度との軋轢よりも、性別とかあまり

関係なく、誰かを好きになる苦しみが感じられました

 

パンフによりますと、母国フィンランドではトーベ・ヤンソンは

一定の評価はされていたものの、今のように

国民的作家となり人気が出たといえるのは、なんと

2000年代に入ってからだそうです

日本は恵まれているといいますか、オタクの国としてさすが

目が高いといいますか

ムーミンはそれ以前の早い時期から、既に紹介され

アニメにもなっていますね

最も、初期のアニメは日本式のカワイイ改造をほどこされて

しまい、トーベは気にいらず、後になって原作に近いものが

制作されていました

 

子供の頃読んだ原作のムーミン、好きだったなぁ

今思うと、物語から感じられるフィンランドのダイナミックな

自然の雰囲気

ムーミン谷の人達の、ちょっと奥ゆかしく奇妙で可愛らしい

独特の性格に惹かれていました

あれって、トーベの人柄が反映されていたのでしょうね

 

嵐の海の浜辺を歩き、時にはジャズで激しく踊る彼女

東京に住む自分ですが、それでも雷が好きで、雷鳴に

ワクワクしたり、夕陽や雲を見たくて、わざわざ高い場所を

探したりすることがあります

トーベは常にフィンランドの雄大な自然のダイナモから

直接エネルギーを充電しているように、見えました

パリを愛してしまったヴィヴィカと別れることになったのも

それが一因にあるかも知れません

 

「ムーミン谷の冬」という作品では、ふだんは家族と冬眠する

ムーミンが何故か眠れずに、一冬を起きて過ごす話で

特に好きでした

知らなかった様々な物を見て、経験して、一番印象的なのは

春が近づいて、朝日の中で凍っていた海が割れる時の

壮大な光景

冬の事を教えてくれる頼りになるキャラクターだった、あの

おしゃまさんのモデルが、実はトゥリッキだったらしいのが

感慨深かったです(ソックリ)

スネフキンのモデルが、アトスだったというのは

ちょっとおじさん過ぎて、スナフキンファンとしてはいまいち

納得できませんがw

 

ヴィヴィカは舞台で、トゥリッキもグラフィック・アーティスト

として名声を得た女性だったそうで、家族を含めトーベの

周囲には、常にアートがあったようですね

 

劇団員に、ムーミンはどうして優しいのかと聞かれて

「弱くて臆病だから」と答えるトーベ

 

しかし、この映画を観終わると、トーベこそ何にも囚われない

自由と勇気を内に秘めた人だったのではないか、と思えます

ヴィヴィカが後に

「トーベの太陽のような愛が、眩しすぎた」と語ってるのも

なんだか腑に落ちました

 

ムーミンをよく知らなくても、親との関係や困難な相手との

恋愛に苦しんだ経験のある人には、良い映画かも

知れません

機会があったら見てみてくださいね

 

 

 

●監督 ザイダ・バリルート

●脚本 エーヴァ・プトロ

 

 

950円の少しお高めの小型パンフレット、中身は結構充実
してました