ーーー少しだけ時を遡るーーー
ここは愛結花の部屋。
優理子と愛結花は同じ部屋に居た。
優理子は先程の騒動で投げつけた物の
整理に追われていた。
誰かに強制されたわけではない。
自らが進んで名乗り出た事だ。
優理子は気分屋で大雑把な性格だが、
責任感と温情に厚い性格でもあった。
そのせいか、今の彼女の心の中は、
情けなさと後悔の念に支配されている。
頭に血が昇ると、直ぐに自分本意な
行動に打って出てしまう。
それを恥じていた。
ふいに黄昏に染まる夕暮れを見て、
深い溜め息を一つ。
「…なにやってんのかな、私は」
そして、片付けの際にある物を
無意識に手に取っていた。
それはアルバムだった。
優理子はそれに目を奪われる。
いいようのない懐かしさ。
思わず頬が緩んだ。
「…懐かしいなぁ」
近くに居た愛結花もそれに気付き、
優理子の側に近づいてベッドに座る。
一枚一枚ページをゆっくりと捲る
その様子を、すぐ隣から覗き込んでいた。
「これは入学式の時かぁ…。思えば、
るいと初めて会ったのがこの後だったよね」
「そうそう、るいは今以上に
無口な子だった。だけど、直ぐに
仲良くなれたっけ」
お互いに過去を懐かしむ。
優理子には愛結花の声も姿も
見えないのだが、何故か不思議と
会話が合っていた。
そして、二人の想い出は回想される。
一年前、同じ中学で同じクラスだった
愛結花と優理子は、二人して同じ高校を
受験した。
それが現在通う七ヶ色高等学校。
留衣はそれから暫く経ってから
転校してきた、帰国子女の女の子だった。
親の都合で各地を転々としていたらしく、
日本に戻ってきたのは数年ぶりらしい。
初めは留衣の周りに人だかりが出来た。
皆は興味津々と言った様子で
彼女に話しかけていた。
だが、それも長くは持たなかった。
何故なら、留衣はそんな彼等に
一言も言葉を発っさなかったからだ。
当然、誰もが関心を失った。
中には露骨に中傷する者もいた。
あっという間に留衣はクラスで孤立した。
だが、彼女はそんな状況にも、
なんの感情も示してはいない。
まるで他人事の様に。
全てに無関心の様に。
愛結花と優理子はそんな彼女に話しかけた。
しかし、返事は返って来なかった。
当たり障りの無い話。
昨日見たテレビの内容、食べた御飯の事、
好きな遊びの事、勉強の事…。
色々な話題を話続けた。
それが一週間程続いた。
優理子は何が何でも
会話するんだと意気込んでいた。
愛結花は色んな彼女の表情が
見てみたいと思っていた。
同情からではない。
愛結花も優理子も、本心から
友達になりたいと望んでいた。
その理由は簡単な事だ。
友達になるのに
“理由なんかいらない”からだった。
ある日、留衣は怒った。
初めて彼女が感情的に反応した。
『放っておいて』と。
その眼は憤慨より寂寥(せきりょう)を
訴えていた。
二人を拒絶しているのではなく、
自らを拒絶している様な、
そんな押し殺した静かな怒り。
愛結花は笑った。
留衣はそれに困惑した。
ーーー心の底から。
『るいちゃんが話してくれるまで待つよ』
留衣はその日、愛結花達の前で
初めて感情をさらけ出した。
悲しい”怒り“と、悲しくない“涙”の二つを。
アルバムを閉じた優理子は、
優しい笑顔になっていた。
そしておもむろに立ち上がると、
窓から見える夕焼けに向かって誓った。
「私はどんな時でも、二人の味方…ぁ!?」
瞬間的に愛結花と優理子が見た光景。
それは、こちらに向かって飛んでくる、
ミサイルの様な物体の姿だった。
ーーーBloody Railgunーーー
数秒もかからない一瞬の出来事。
爆風と共に全てが吹き飛び、
凄まじい閃光に視界が遮られた。
私は真っ先に叫んだ。
「優理子っっっ!!」
突如襲い来る意識の暗転。
その時にうっすらと感じ取れたもの。
それは、誰かの佇む後ろ姿と、
火薬と煙草が入り雑じった淡い匂いだった。
僕は、生きているの?
それとも死んでいるの?
分からない。
白く狭い僕だけの世界に、
僕じゃない僕の呼吸が聴こえる。
その中に、微かな人の声も聴こえる。
大きくなっては小さくなっていく。
流れては消えていく。
毎日がその繰り返し。
何もない、時間もない、自由もない、
白と黒のぼんやりとした世界。
僕はここにいるの?
それともいないの?
いいようのない怖さ。
いいようのない寂しさ。
それだけが、僕が僕である証拠。
まだ生きていると感じられる、
僕だけの苦しみと痛み。
ーーーそれなら世界を創ればいいーーー
世界?
ーーーそう、君が君でいられる世界をーーー
僕だけの世界…。
ーーー儚くも、不羈(ふき)な刻を彼にーーー
誰かの声が聞こえる。
「……り、…ゆり、ゆりっ!!」
意識と共に目を開くと、
目の前には留衣の顔があった。
泣き顔で顔がくしゃくしゃになっている。
何が起きたんだろう?
いまだ状況が飲み込めないが、
留衣を心配させたのは確かなようだ。
しかし、留衣も慌てているのだろうか。
私の名前を間違えるなんて。
『やだな、私は愛結花だよ。るいちゃん』
「!?」
何故か、その場の空気が氷つく。
『うん?私、何か変な事言った?』
「…く、クロトさん。これって…」
留衣が心配そうにクロトさんに尋ねる。
「そんな馬鹿な…。魂鳴(こんめい)だと!?
傀線状態で起こりうる事じゃないぞ?」
クロトさんは予想外だと言わんばかりに、
驚きの表情を隠せないでいる。
一体何が起こっているのだろうか?
「…いたた。何よ、今の爆発は~?」
『えっ!?』
それは妙な感覚だった。
自分の身体の中にもう一人誰かがいて、
お互いが同時に喋っている様な違和感。
そして、その声の主は、
とても聞き慣れた人物の声だった。
『ゆ、ゆり!?ゆりなの?』
「ええ!?その声…あ、あえかだ!!」
「魂鳴とは…、他者の意識(魂)が相手と
共鳴して起こる現象。云わば、憑依。
二人の精神が重なってしまっている」
「『ええ~~!?』」
二人は一つの身体で同調して叫んでいた。
[続く]
【あとがき】
一向に物語が進まないのは、
私が未熟だからですね…(´▽`;)ゞ
クロトが主治医だって嘘ついてるけど、
その医者が「憑依」って発言どうなの?
医学的には精神分野なのかなぁ( ´_ゝ`)
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