#ギイタク


窓から差す光に透けるあなたを見てました。


…ね、いい加減機嫌直して?


「ね、ギイ」


無視。


うう、もう半日これ。

せっかく文化祭終わって、完全週休2日が戻ってきたのに、金曜夜にケンカ?するなんて。


早く仲直りしないと、せっかくの週休が終わってしまう。


金曜の夜、一緒にベッド入るまでは良かったんだ。


ギイの定期購読の雑誌を、僕も横から覗き込みながら(珍しく経済とかの本じゃなくて、普通の雑誌)綺麗な南国の海と、ヴィラが写真にあって

「綺麗だね。どこかな」


なんて、肩がぶつかる距離でイチャイチャしてたんですよ?


ギイも甘く頬にキスしたりで、いーい雰囲気だったのにね。

「んー?ニューカレドニアかな。地球に残された最後の楽園」


僕は少し眠くなって、枕を抱きしめる。

「楽園かぁ。いいなぁ」


ギイは、よしよし、と僕の頭を撫でてご機嫌。

「いつか連れて行くよ。

 新婚旅行でもいいけど」


ここで僕が返事をしくったのだ。

「新婚旅行?ギイここ行くの?」


ギイが黙った。


僕は一瞬意味が分からなかった。


だって新婚旅行なんてピンとこないよね?

高校生だよ?

まさか自分に降りかかってる話だなんて…


ギイは一気に不機嫌になっていた。

「何だよ。ギイここ行くの?って。

 お前は行かないのか?

 じゃあオレは一人で新婚旅行なわけ?」


スッと離れた温かい手のひらを、僕は泣きそうに見つめる。

「だ、だって新婚旅行て、結婚して行くものじゃない」


ギイは、もうよそを向いていた。

「だから、結婚して行くんだよ」


「だって結婚て、そんな」


ギイはベッドから立ち上がった。

「はいはい。託生くんは、オレを彼氏だー、って言っときながら、そんなに先にはオレはいないんですね。オレ一人、ずーっと未来にも託生を描いてましたよ」


え、嬉しい。

嬉しいのに、過去形にされてる。

「いや、そんな先にも、いて欲しいけど、でも」


「でも結婚なんて、そんな、って言いたいんだろ。

 そんな先までギイといられるか分かんないしー、だよなー。はいはい」


うわ、やだなんかおかしな方向に行ってるよ。


ギイはドアまで行って僕を振り返った。

「いくら好きだって言っても、託生は卒業したら分かんないんだな。オレたちの付き合いも高校で終わりか。オレは、所詮、高校の時の彼氏、なんだな。分かったよ」


「ちょ、ちょっとギイ」


「ギイとか呼ばないでくれる?

 オレ、ずっといてくれる恋人がいいから」


え、やだ。

恋人は僕じゃないの?

やだよ、他の人に、僕としたことするの。


「やだ、ギイ」

やだ置いてかないで。


ドアが閉まる。

僕を拒絶するように。


僕はドアに駆け寄ってすがった。

「やだぁ…」


ドアを開けようとしたけど。

「開けるな!」

ドアの向こうから拒絶されて、僕はドアに掛けた手を止めた。


今、無理に追ったらホントに別れてしまいそうで。


怖くて。


でも

ギイは僕を好きで

それこそ高校で終われないくらいに好きで

僕も、ギイの言うところの結婚は思い描けないけど、ずっとずっと一緒にいたくて。


だからお互い傷つくんだよね?


痛いよ


「やだ、ギイ好き。

 ずっと好きだって!」


消灯後、静かな廊下に、僕のとんでもないカミングアウトが響いた。


カミングアウトくらいいいのだ。


文化祭、公衆の面前でキスかましちゃったので。

今さら、だ。


でも


ギイを失うのだけは

やだ。