#ギイタク


雨降りでも

弱い光の中、あなたの寝顔は綺麗。


僕は、ギイの眠る横顔を眺める。

「うーん」


なんだかんだで、光に透けなくてもギイは綺麗なのである。


僕は寝顔見たさに、朝ギイより早起きする。


夜は…まぁ何というか、つい眠くなり、どうやってもギイより早く寝てしまうので寝顔を見損ねるのだ。

残念。

事後のボーっとしたギイも色っぽくて、たまらないのだが、いかんせん眠い。

何でだろうなぁ。活動量的には絶対ギイの方なんだけど、眠くなるのは僕が先なんだ。



あんまり眺めてたら、ギイが目を覚ました。


首を回して僕を見る。

「おはよ託生」


機嫌いいな。


僕の頭を抱きしめて、髪にちゅっ、とキスする。

「昨夜も可愛かったよ」


…だから、それが余計だって。


黙っていてくれたらいいのに。

困る。


そしてまた例によって、昨日のことを回顧する。

そして眉を寄せる。

「アイツ、文化祭の実行委員?託生に何言ってたの」


「何か委員引き受けて下さい、って」


ギイが首を傾げる。

「ホント?」


「え?ホント?って?」


嘘なわけないじゃない?

文化祭の実行委員が、文化祭以外、僕に他に何の話をするのさ。


ギイが半目になって、疑わしそうに僕を見る。

「あんな距離で話さなくてよくない?

 託生に肩が触れそうだったろ。

 いや、触れてた?」


「触ってないよ。どの角度から見てたの。

 モザイクアートの委員か、舞台…演劇か、して、って言われたから、消去法でモザイクアートすることになった」


「アイツもモザイクするんだろ。

 何だよ、一緒しよう、って誘われた?」


いやいや、そんな言いがかり。

「実行委員だから、舞台に上がってる暇ないだろ。

 選びようがなく、あの人もモザイクアートだよ」


「あの人…」


「あ、ごめん。名前覚えるの苦手で、うちの実行委員て誰?」


「教えない」


「ええ?これ以上変人扱いされたくないよ。

 教えてよ」


「やだ。託生の口から他の男の名前聞きたくない」


「…他の男ってね」

男子校で他の男、以外ないでしょ。

あーこれ以上有名なコミュ症になりたくないのに。


「特にアイツはダメ。託生のこと変な目で見てる」


「見てないよ」


「いや、絶対狙ってる」


「ギイを狙う人はいても、僕を狙う人はいないよ」


「いるよ」


「いないって」


「オレがいたんだから、いる」


うう、頭がいいイケメンて、ずるい。

なんかそんな気になるじゃないか。

どういう説得力だよ。

確かにギイほどの人が僕を好きになってたりするなら、他にもいそうな気がしてくるじゃないか。


「じゃあ、ギイ以外見ないように気をつける」


「先生と無機物は見ていいぞ」


「そうする」


「やけに素直だな」


「別に興味ないから。ギイ以外の人は」


ギイが嬉しそうに笑う。

「そっかそっか」


そして外を見て、また不機嫌になる。


今度は何。


「どうしたの。ギイ」


「雨だ」


僕も窓の外を見る。

「うん」


ギイが僕をじっと見た。


どこ見てるんだろ。

視線が何かおかしな軌道を辿ってる。

「ギイ?」


「雨に濡れるなよ」


「?うん」


「絶対な」


「絶対は難しい」


「じゃ、ジャケット着ていって」


「やだよ、暑い」


「シャツの下、何か着てる?」


「え?Tシャツ?」


「透けない?」


ああ。雨に濡れて透けるな、と。


…ちょっと待て。

何が透けて見えるんだ?

女子じゃあるまいし。


「何心配してるの。濡れても何も見えないよ」


「何か見えたら大変だろ」


ああ?確かに?

え、じゃ、何心配してるの。


ギイがため息をつく。

「分かってないから、心配なんだろ。

 濡れたら、張り付いて肌が透けて見えるだろ」


「…男の肌見て、どうかある人いるの?」


「オレ」


「まあ、ギイはね、僕にはね」


「託生だってそうだろ」


「僕?」


「シャワー後のオレ見て、色っぽいね、って言ったろ」


「そりゃ、濡れたギイは、綺麗だよ。僕じゃなくても…あ」

そういうことか。


特段ギイをそんな目で見てない人でも、あのシャワー後のギイにはドキッとすると思う。


なら、ギイが濡れた僕を、他の人が見た時、どう思うか…。まあ、可能性はゼロじゃないと考えるよね。


でも、ホントに綺麗なギイと、ギイの惚れた欲目補正がかかった僕とではかなり条件が違う…なんて、それこそ頭で分かってても、気持ちはどうにも修正不可能だろうな。


僕はあきらめた。

「下にTシャツ着てくから」


「何色」


え?色に何かあるの?

「水色?」

制服の襟を引っ張って覗き込んだ僕の指を、ギイが外す。

「やーめーて。襟元広げない。それにその仕草も駄目」


「あー…」


「水色もやめて。白が透けて水色とかエロいし」


水色、てエロいですか。


「白にして」


…確かに白は、ダサ…いえいえ手堅いですね、白が。はい。

聞きますよ。また明日朝、起きた時に機嫌悪くされても悲しいから。


「ウィンドブレーカー着て行こうかな」

いっそカッパが潔い気がする。

ダサい?

多分そっちの方がギイは安心なんでしょ。

でも自分の彼氏がダサいとか、嫌じゃないかなぁ。


ギイが目を上げた。

「そうして!」


はいはい。

僕は色っぽくもなんともないんですがね。

でも、そんな僕に『そんな気』になるギイにしてみたら、僕は色っぽいことになるのだろうから、反論しません。



だけど


雨の湿気の中、更にウィンドブレーカーで蒸された僕は汗をかき。

頬に張り付いた髪を掻き上げたところで

「託生、それも色っぽいから、やめて」

横に来て、小声で抗議するギイに


「じゃあ、どうしろって」

更に抗議する僕。


言ったものの、ギイも困って。

「え、雨天中止?」


…体育祭じゃありません。


もう…



でも好きだよ。



〜雨天中止の託生〜w