#ギイタク


光に透けるあなたの髪が

綺麗で。


僕の時間が

止まる。


日曜日の朝

昇ったばかりの太陽に照らされて透ける

あなたの髪は金茶で


思わず手を伸ばして指に絡める


「ん、うん?何、託生…」


僕は反射的に手を引っ込める。

「あ、や、ごめん。疲れてるなら、寝てて」


「んー託生も寝よう?」

あなたの手が僕の手首を捕まえる。


指の腹の感触に、どきりと心臓が跳ねる。


…やだな。

好きで好きでたまらない。

こんなことにすら反応する。


あなたは薄く目を開いた。

「託生?」


「……」


「おいで?」


倒れ込んだ僕の唇に軽くキスする。

「ギイ」


「うん。好きだよ託生」


「……」


ギイが眉をしかめる。

「何で黙んの、嫌いなの?」


「いや、そんなことは」


「ソンナコトハ?

 そんな返事やだ」


「やだ、って」

いきなり子供みたいなギイ。


「ちゃんと言って。またはして」


「して?」

何を?


「託生からキスして」


美形は目を閉じてても綺麗。

まつ毛の、何て長いことか。

ああ


「たーくーみ」

ギイが拗ね出す。


拗ねる。

そんなの見たことあるの、多分僕くらい。


「何ニヤけてんだよ託生」


「あ、ううん」

キスですか。

そんなことするの、僕しかいない。

という優越感。


キスしたら、ギイが頬だけで薄く微笑んだ。


ふわりと、ピンクな微笑み。


ああ

好きだな

大好き。


「ねぇ託生」


「うん?」


「続き、する?」


「…しない」


ギイが片目を開ける。

ウィンク。

「何その間、したいんならしたいって」

「しない」


僕が断定したらギイは不機嫌になった。

「託生はしたくないくらいにしかオレを好きじゃないんだ」


「いや、日曜朝だからね」


「オレに触られたくないんだ、舐め…」

何かとんでもないこと言い出した口にクッションを押し付ける。

「ギイくん、黙ろうか?」


「んぐ、託生くんはオレに…」

どうやって喋ってるんだ?

何かと器用な人だよね。


僕は何言い出すか分からない唇をキスで塞いで、でも逆に舌を捕まえられてキツく吸われた。

痛くて頭の奥が痺れる。


「ギイ」


「おはよ、託生。

 オレの誘いを断ったな?

 夜は拒否権無しね」


…断ったことになってるのか。

まぁいいや。

朝からなんて明る過ぎてイヤなので。

ギイはいいだろうけどね。

どこでいつ鍛えてるんだか、筋肉まで綺麗。

…男として、恥ずかしいんですよ。分かってよ。

「うん」


ギイは、クルッと長い脚を回してベッドの淵に腰掛けた。

「あれ、素直」


「嫌とかじゃ全然ないし」

ていうか、恋人同士なんで、その上同じ部屋で寝起きしてるんで、隙あらばしたいですよ。

ギイと同じ歳でオトコノコなんですよ?


ギイは嬉しそうに両手を広げた。

「おいで託生」


僕はされるまま、ギイの胸の中に収まる。


ギイの手が僕の髪を撫でる。

「今のところはこのくらいにしときましょう…ん?」


ん?


ギイが僕の肩を掴んで顔が見えるところまで引き離す。

「思い出した。

 昨日の体育、何でジャン負けすんの」


はあ。

卓球の授業、ジャン負け審判って言ったから、ラッキー、と思ったのに、いきなり体育館が使えるとか言って、負けた生徒は卓球場から移動になった。

のは僕のせいじゃないと思う。


「ギイは勝ったんだよね」


「だから託生と別だったんじゃん。

 体育館でバドミントン。オレじゃないヤツらと」


「…しょうがなくない?」


「やだよ。卓球はそうでもないけど、バドミントンて、ハラチラするじゃん」


はあ?


ギイが膨れる。

「託生はオレ以外に、カラダ見せたらいけないと思う」


「カラダ、て、バドミントンしてたまにお腹見えるくらい…」


「駄目。託生の肌見ていいのはオレだけ。

 他のヤツらは服の上から以外不可。

 ホントは見せたくないのに」


「学校生活送れないじゃない」


「まあね」


「まあねじゃないから」


「託生はオレがハダカ見られて平気?」


「嫌だけど」


「ホラ見ろ」


「いや、裸は見られてないから」


「肩より上のシャトル打ってない?」


「打つでしょ。僕体育の成績良くないから、せめて真面目にしないと」


「成績と貞操どっちが大事」


「後者は何も損なわれてません」


ギイが、僕のお腹に頭をぐりぐりする。

「オレの託生なのに」


「うん。ギイのだよ」


「絶対な」


「うん」


僕がギイのものなのくらい

ギイが僕のものなのに比べたら、全然簡単なことなのに。


ギイは皆んなのギイだからなぁ。


なんて

僕が思うより、ギイには大したことなんだよね。


僕が、好きだよ、って言った日、ギイは嬉しそうに部屋のドアを見て

「出れない、誰も入れないように、セコム付けたい」

ってつぶやいた。


おい?

って思ったけど、僕は僕なんか、って思う以上に、ギイには大切なものらしく、僕には理解出来ないけど、人の感性にあれこれ言うつもりもなく、ありがたくギイの想いは受け取ってるわけで。


うん。

不思議なことにギイには僕が大事なんだよ。

頭では分かる。


僕はギイが好きだから、好きな人の趣味はとやかく言わない。

尊重します。


ギイがやたら僕としたがるのも、よく分からないけど、好きな人なので、しますよ、したいですよ、しましょう。


やだな、恥ずかしくなってきた。


「託生?」


一人恥ずかしがりをしてたら、ギイから不思議そうにされた。


あー綺麗だな。

好きだな。

何でこの人、僕のこと好きなんだろ。

でも、僕もギイのこと、綺麗じゃなくても好きだろうから、何で、ってないよね。

もうちょっと綺麗じゃなくて、頭良くなくて、優しくなくて、全然良かったのにな。

そしたらも少し不安じゃなかったかもしれないのにな。


いや、ギイは何も無い僕にすら、心配してるから、条件なんて関係ないのかもな。


好き、ってそれだけで不安なもの。



僕は、ギイの頭を抱きしめる。


金茶の髪が光に透けて、綺麗。


「ギイ」


「ん?」


「好きだよ」


「うん」


「大好き」


目を閉じて、あなたの髪の色を香りを自分の中に閉じ込める。


閉じ込めても、きっと安心出来ない。


だって失いたくないから。


得たからこそ、失うのは怖い。



このまま時間が止まったらいいのに…


「ギイ、大好きだよ」


ギイが、僕の下で嬉しそうに微笑う気配がしてた。


よかった。


あなたが嬉しいと、僕も嬉しい。


あなたもきっとそうだから


僕もなるだけ幸せでいよう。


あなたの為にも。