#ギイタクif少女



幸せって、右の小指から入ってきて

左の小指から抜けてゆくんだって

だから


今ある幸せをのがしたくないから

…左にリングをちょうだい。


あなたがいる今をとどめておきたいの…。



あなたがあたしを好きと言ってくれる。

あなたの声を、眼差しを思い出す。


毎日毎日幸せ。


だから

今をのがしたくないの。


あたしからあなたがすり抜けてゆかないように。




「ギイ」

あたしはギイの腕にしがみ付く。


ギイは少し困った顔してあたしを見下ろす。

「タクミちゃん、当たってる。

 胸が」


あたしは慌てて身体を離した。

「え、ぁ…ご、ごめんなさいっ」


ギイが苦笑する。

「オレはいいんだよ?オレはね?」


ギイはふと真面目な顔をした。

「タクミちゃん」


「?はい?」


「タクミちゃんは、オレと付き合ってるんだよね?」


「え、うん、もちろん?」


「オレ、タクミちゃん抱きたいな。

 女の子イヤなら、オトコノコの方でしよ?」


さすがにあたしも成人を越して、ヤダヤダ言うのはあんまりだと思う。


ギイは充分時間をくれた。


…だよね。



っては思ったものの。


いざギイの部屋。

腰を引き寄せられて、キスしたら…

「やだ、やっぱそっち怖い。

 普通にして!

 痛、痛そうだもん。怖いよ」

やっぱり怖くて、涙が出そうになった。


ギイはあたしの頭を撫でる。

「でもタクミちゃん、男の子としてオレを好きになったんだよね?じゃあ、普通に女の子のセックスしたら、嫌じゃない?」


「やだぁ、ギイだけには女の子でいい…」


ギイがあたしの額にキスしながら苦笑する。

「勝手な子だねぇ」


ギイはあたしの胸元のボタンを外して、服の隙間から、胸にチュッとキスした。

「男の子だろーが、女の子だろーが、初めては怖いでしょ。痛いし」


抱きしめて耳元で囁いた。

「でも、タクミちゃんの初めてはオレが欲しいなぁ」


あたしはドキリとして


つい、兄を思い出した。


…あんな風にされることがあったらどうしよう。


『お前が女だからこんなことになるんだろ?』

あたしのせいなの?


あたしはギイの肩を押し返した。


…あたしは女である以上、兄の縛りから逃れられないのかな。


「ごめんなさいギイ。

 あたしやっぱり男になりたい」


「手術、受けるの?」


あたしはうなずいた。


あたしは兄の玩具じゃなく、ギイと出会い直したい。


「ギイはあたしが女の子じゃなくてもいいよね?」


「うん」


「このままじゃ進めない。

 あたしは男になって、もう一度始めたい」


「うん。タクミちゃんがそれがいいなら、いいよ。でも」


ギイがあたしの小指を触る。

「タクミちゃんが女の子でいる間だけ、お嫁さんになって」


「…え」



あたしは、海外行きの前にギイと入籍した。


帰って来たら男になるから、離婚していい

とギイが言って。

今の日本の制度なら、あたしが男になった時点で結婚は無効になる。


今だけ

って。


海外行きの前の、ほんの数週間、あたしはギイの奥さんだった。


またすぐ出て行くから、ただのお泊まりみたいに、少しだけ荷物をギイの部屋に置く。


一緒のベッドで眠る。

セックスはしなかった。


「タクミちゃん」

抱きしめるギイは、ことさらに優しかった。


あたしが海外から帰って来たらどう説明するんだろう、と心配するくらいには、ギイの知り合いに紹介された。


指輪は


小指にもらった。


薬指だと、返さなきゃいけないから。


…やだな。

離婚。


でも指輪は返さなくていいのが嬉しい。