#ギイタクif少女



別れようとよぎった日


本当に別れるのが、近付いた日


恋人じゃなくなる日…



あたしは、ただ


あなたの優しさに甘えて


あなたの言ってくれる「好き」にすがり付いて


手を離したくなかった。


あなたといられるだけで


どんなにか幸せだった。


多分、甘える、って感覚も、教えてくれたのはあなただったと思う。


初めて力抜いて、一緒に過ごせた。


呼吸がラクだった。


ねぇ、でも


あなたが好きだったのは

「タクミ」?

だったら、それはあたしじゃない…



「ごめんなさい、ギイ」

胸を押し返したあたしの手首をあなたは掴む。

「何で別れるとか言う?

 オレはこのままで別にいいし。

 今までだって、別に何も困ることなくやってこれただろ?

 いいじゃないかオレたちはオレたちの形で」


あなたの手があたしの頬を包む。

「ほら、ちゃんと触れる。

 オレは、ちゃんと愛してる。

 オレらは、ちゃんと恋人だろ?

 オレはタクミちゃんがいい」


「こんな付き合い方、おかしいでしょ。

 あたしカノジョなのに、ギイに何もさせない」


あなたは優しく胸に抱きしめる。


あったかい

あったかいの、あなたの中は。


…涙が出そう。


あなたの大きな手のひらがあたしの髪を…もう出会った時の色じゃない、素の漆黒の髪を撫でる。

優しい手のひら。

あったかくて、大好き。

たくさんたくさん、痛いお腹を撫でてくれたね。

あの感触をあたしは忘れない。


「オレは今のままでいい。

 これ以上何も望まないから

 …傍にいて、傍にいさせて。

 好きでいさせて。好きでいて。

 オレはタクミちゃんといたい」


あたしは目を閉じる。


ありがとう

あなたがそんな風に優しいから

あたしは向かい合わなきゃいけないことからずっと逃げてる

あたしもあなたといたい

好きで好きで好きなの


でも



「ちょっとタクミさん」

先日家で、久しぶりに母に呼び止められて、思わず背筋が伸びた。

「あ、はい」


「もう来週よ。準備は出来てるの?

 あなたのワガママに付き合うんだから、あとは私たちは関係ないですからね。

 全く高いお金使わせて」


あたしはママと目を合わせられない。

そのまま頭を下げる。

「ごめんなさい。

 これからは自分で生きてくから。

 ありがとう、今まで」


あたしは高校を卒業する。

成人もした。


やっと親から離れる。


だから、あたしはあたしになる。


あたしは「葉山タクミ」じゃなくなる。


ずっとずっと願ってた

あたしじゃないあたしになる。


あたしは…


あたしとして生きてゆきたい。


それには、あなたと一緒は出来ないの…