#ギイタクif少女



そのきみの儚い笑顔を


壊れそうな細い肩を


守れる為に

自分が男であるなら


それは幸せなことと思う。



…それはそんなに単純なことじゃなかったけど。



人が言うにはオレは「優しい」人間で。


それが良いかというと、実は中味がないから

あまり良いものではなく


オレは単にその場の空気が悪くなるのとか、人が嫌な顔をするのを見るのが嫌いで。

「優しい」人をやってるんだと思う。


情け無いなぁと

思いはするんだけど

他に何の取り柄もないし。


「これ」で評判が悪くないなら、

別にいいかと思う。


…きみに会うまでは。

こんなオレで良かったんだ

別に。




きみは膝より上のチェックのスカートが制服の、よく見かける学校で。


バーガンディのリボンが胸元に揺れる、可愛い制服はきみによく似合っている。


あまり校則が厳しくないのか、きみの髪はオレほどじゃないけど明るくて

(オレのは地毛だけど)

目も、遠目にもグレーで、オレは洋ネコみたいだな、なんて思ってた。


可愛い可愛いきみは、よく似たメイクの、ともすれば見分けがつきにくい女友達といつも一緒だった。


けど、何故かきみだけは、他のよく似た女の子たちと見分けがついた。



「あの」

ふと、斜め後ろから声を掛けられる。


振り返ると、小柄なきみが見上げていた。


…ああ、近くで見ても可愛いな。

これってメイクで作ってるのかな。

すっぴんだと顔違うのかな。

でも、それも可愛いんじゃないかな。


…見てみたいなぁ。


オレは微笑み掛ける。

「何?」


きみは少し戸惑った。


背後を気にする。



「あの、友達が、あなたに、って」

携帯を差し出す。


LINEのQRコード。


オレは携帯を凝視した。


いや、オレは確かに軽そうで、温和そうに見えるだろうけど。

いくら何でも、きみの友達から携帯渡されて

「ハイそーですか」

と、連絡先を交換するほど不用心ではない。


…もしその程度と思われてるなら心外だ。


オレは、携帯を押し返した。

「きみの携帯は?」


きみが顔を上げる。

「え、あの、その」


友達からLINE交換してこい、と非常識なことを引き受けた割には、きみは真剣に悩んでるね。

何なの。


きみは意を決したように、オレを見詰めた。

「ごめんなさい。

 あたしが、あなたの連絡先知りたいんです」


オレはまだ状況が飲み込めない。


きみは、どうしよう、と必死だ。


LINEの画面をホームに切り替えた。


アイコンを指差す。

「あたし、です」


加工はしていたけど、確かにきみだった。


ん?


「あたしの、携帯です。

 ごめんなさい。友達のとか言って。

 あたし可愛くないから、あたしが言っても教えてもらえないかな、て」


「きみが、オレの連絡先聞きたいの?」


きみは携帯を持つ手が震えてた。


何でそんなに緊張してるんだろ。


オレは携帯を取り出す。

「はい。

 あ、名前教えて?」


きみが顔を上げる。


オレは、きみの携帯のLINEにオレのQRコードを読み込ませ

「何か送ってよ」

きみをうながす。


きみは慌ててLINEスタンプを押した。


オレの携帯が振動する。


ネコの見上げた絵。

「よろしくにゃ」

可愛いね。


オレは笑う。


「こちらこそよろしく」


きみは真っ赤になった。


ん?

これってナンパなのかな?