#ギイタク

2nd



きみ宛ての、郵便がまだ


ポストに届きます…


どんな気持ちでそれを手にするか


手にした時、オレはどんな顔をしてるのか…


きっととても情け無い。


きみには見られたくないなぁ…



「TAKUMIー」

呼ぶと、賢い目をして、レトリバーのTAKUMIが走って来ます。


もうきみ宛てのダイレクトメールすら、来なくなった今。


オレはきみと暮らした部屋から、ペット可物件へ移り住み


…いや、きみの気配が残る部屋から、たまらず逃げ出したんですが


それでも浮かれて作った二人の表札は捨てきれず。

幸い漢字でなかったので、同じ名前の同居人を迎えました。


きみの名前と同じイントネーションで呼ぶ根性も持ち合わせなかったオレは、アメリカ人の発音で同居人を呼びます。


呼んで気付いたのですが、きみの名前は意気地なしのオレにぴったりな気持ちを表してて

「take me」

に聞こえてしまうのです。


「なぁ託生、もうそろそろ『オレも連れてって』?」


きみを失くして

きみを抱きしめたい腕が空を切るのが辛すぎるから

抱きしめれるTAKUMIを傍に置きました。


腕にすっぽり入っていたTAKUMIは、すぐにきみと変わらないくらい大きくなって、きみと同じ黒い瞳でオレを見詰めます。


また、この子まで失くしたら耐えられないとは、飼ってしまってから思ったのですが。

レトリバーの寿命は、丁度オレがこの子を散歩に連れて行けるくらいまでだなと気付いて。


ああ

オレは結構きみと長く一緒にいられてて

オレもいい歳になってたんだな、と今さら気付かされました。


まだTAKUMIは元気にオレを散歩に誘います。


リードを持ってきて、あの黒い瞳でオレを見上げてパタパタとしっぽを振ります。


それがもちろん嬉しくもあり


でも、まだまだきみに会えるのは遠いのだと


少し淋しくもあり。




そんなTAKUMIが、少し食が細くなりました。


心配でシニア用のエサに切り替えます。


また、TAKUMIは食べるようになりました。


オレはホッとしながら、やっぱり愛おしい者を見送るのは嫌だな、とTAKUMIを撫でます。


TAKUMIは嬉しそうに、オレを見詰めました。


オレと目が合います。


「愛してるよ、TAKUMI」


犬は言葉が分かります。


TAKUMIは喜んで尻尾を振ります。


少し寒くなってきました。


まだ早いですが、今年はクリスマスツリーを飾りましょう。

きみと暮らし始めた時に買ったツリーです。


何か、今年はちょっといい気分だから。


TAKUMIの首輪も新調しましょうかね。




飾られたクリスマスツリーを見上げて、TAKUMIは不思議そうでしたが、夜にライトを点灯させると喜びました。


飾られたオーナメントを、鼻でつついて揺らします。


幸い賢いTAKUMIはツリーにイタズラは、しませんでした。




ある朝でした。


いつも隣に寝ているTAKUMIがいません。


ここ数日、TAKUMIの顔が変わってきたのは感じてました。


もしかしたら、

と。

考えないこともなかったのですが


『それ』

は、嫌で。

どうしても嫌で。


オレは部屋の中を探します。

「TAKUMI」


「テェーイクミ?」


あちこち探して、

クリスマスツリーの下で丸まるTAKUMIに気付きました。


TAKUMIは、オーナメントにイタズラしなかったのに、ひとつプレゼントの箱の形のオーナメントを鼻先に落としてます。


四角い発報スチロールにキラキラの紙を巻いて、リボンをかけた、プレゼント型のオーナメント。


リボンが緩んでます。

TAKUMIが遊んだのでしょうか?


オレはTAKUMIに屈みます。

「TAKUMI、キラキラして気になったの?」


オレは、TAKUMIからオーナメントを取り上げました。

TAKUMIは抗いません。


リボンを結び直そうとして、中身が見えかけているのに気付きます。


発泡スチロールではなく、紙の箱でした。


好奇心が動いて、オレは箱の中を覗いてみました。


箱って何か入っている気がしてしまうのは何でしょうね(笑)


中には紙が入ってるだけでした。


振ったらカサカサいうようにかな?


ついでに紙まで見てみます。


ただの四つ折りの小さな紙ですが


開くと


懐かしい文字が…


『メリークリスマス』


それだけですが


それだけだから余計に


涙がこぼれました。


「託生…」

きみがここにいます。


何年か前のきみが。


『タクミ』

と呼んだから、TAKUMIが何だ?とオレを舐めます。


オレはTAKUMIを撫でました。

「ありがとう。

 お前からクリスマスプレゼントをもらうとはな」


TAKUMIは嬉しそうに尻尾をパタパタさせてました。


翌日


役目を終えたかとでもいうように

TAKUMIは、ツリーの下で息を引き取っていました。


「お前がエンジェルラダーになってくれたの?」


オレはTAKUMIを撫でます。

「託生が、もう来てもいいよ、って?」


オレは大病は患っていませんでしたが、最近嚥下が悪くなってきました。

まぁ年相応ですが。


…今年は、一人でクリスマスを迎えなきゃなりません。

TAKUMIもいません。


ああでもTAKUMIに、託生からのメリークリスマスをもらいました。


…今年は一緒にクリスマスを迎えてもいいのですかね。


もう


いいのですかね


『そちら』

へ行っても。


ねぇ?


たくみ…




オレからも言っていいかな


Merry Christmas


and


happy new year…



虹の橋を渡って。


きみへ


届けたいです。




Angel rudder

after short story


fin'