#ギイタク
2ndポジション
今日も、空が少し見える視界から朝が始まります。
「ああ…」
今日もちゃんと生きてますね、僕。
僕は、ベッドの上で息を吸って、吐いて、瞬きした。
空が少しだけ見えるのは、ギイがカーテンをほんの少しだけ開けて仕事へ行くから。
あれから、まずギイが僕に説明したのは
「託生のはAIDSじゃない。
だからすぐ死ぬとかじゃない。
HIVウィルスに感性してる、ってこと。
しんどいけど…薬はあるんだよ」
すぐには死なない。
死ぬまでギイが傍にいてくれる。
そこまで認識して、僕はやっとギイの目を見れました。
「しばらく、生きられるの?」
ギイがうなずきます。
「薬がうまく合えば、オレと変わらないくらいに」
薬。
合わなかったら、ダメになるんですか。やっぱり。
ギイは、
ええとね、と
頭の中で、医学の内容を、僕用に変換してくれます。
ギイは、うん、とうなずいて話し始めました。
「HIVウィルスは、ヒトが元来持っている免疫を段々減らしていくから、そのウィルス自体を増やさない薬、を飲まなきゃいけない」
僕はうなずきます。
ギイは、僕が理解したのを確認して続けました。
「副作用も、あるかもしれない。
でも放っておいたら、ウィルスが増えて、何もかもに抵抗力が無くなる。そうすると、AIDSを発症する。AIDSは命に関わる」
僕はもう一度うなずきました。
ギイは、ノートパソコンと医学書を見ました。
「だから、HIVウィルスを増やさないように…生活しなきゃ」
「分かった。薬はきちんと飲む。
…それでも人に感染る?」
「ことと次第によっては。
血液感染が一番。あとは粘膜感染。
母子感染もあるけど、託生は出産はしないだろうから」
「だろうから、じゃないでしょ」
僕はちょっと笑ってしまって、粘膜、を思い起こす。
手は…粘膜じゃない。よね。
まだ、触れる?
ギイに、触ってもいい?
僕が手を見詰めていたのを、ギイは目敏く見つけた。
手を伸ばして、僕と指を絡ませる。
「こういうのではうつらない」
僕は赤くなった。
「…うん」
でも、ホントは嫌でしょ?
ヒトを蝕んで、死に至らしめるウィルス、ギイだって怖いでしょ?触りたくないでしょ。
僕の心の声が聞こえたか、ギイが僕を抱きしめる。
「ぎゅってしても、大丈夫だよ?」
耳元で囁かれて、僕は心臓がドキドキした。
そのままギイの顔が近付いて、唇が重なる。
え?
口はダメなんじゃないの?
粘膜、じゃ、ない?
ゆっくりギイが唇を離して
「大丈夫だよ。
セックスも出来るよ。ちゃんと気をつけてすればね」
「それは…」
いくら何でも怖い。
僕は、首を横に振った。
ギイが笑う。
「怖い?
託生と一緒にHIVの薬飲んでも、オレはいいよ。
元はと言えばオレのせいだし。
ただ、託生がしんどい時、オレが元気な方が何かしてあげられるかな」
ギイ、HIV怖くないの?
ギイは微笑んだ。
怖いのはね…
「今、託生に向けているこのオレの気持ちが、行き場を失うことだよ」
ギイは、金茶のまつ毛を瞬かせた。
「それが一番オレには怖い」