#ギイタク

2ndポジション



あれから


しばらくギイとは顔を合わせ辛く。


キズもなかなか治らず

生活に不都合で病院を受診した。


見えないところで炎症を起こしてないか、採血もしたところで

医師が眉をひそめた。



「検査項目増やして」

医師が看護師に指示をしている。


それから僕を振り返った。

「葉山さん。

 ケガの痕から菌が入ってる可能性があるんです。

 で…」


医師は言葉を濁した。

「決まったパートナーはいますか?

 その…性交渉の」


?何だろう。

「います、けど、いえ、いましたけど、今までのことが何か問題ですか?」


「いや、今までは問題ないと思う。

 今回のケガ以降だね。

 菌が、他へ感染する類いのものかもしれないんだ。検査結果が出るまで、控えてもらえるかな」


「はい」

もう、ないかもしれませんが。


そう

もう、こんな僕にギイは触らせたくない…。



「たくみっ⁈」


あれ?

ギイに連絡してないですよね。僕。

会いたかったけど。

会う資格ないけど。


でも

会いたかった。

僕、思ったよりギイを好きみたいです。


でも、病院で何かよくない感染症みたいに言われてるし。

…セックスするな、って一体何の疑いが。

性病?

梅毒とか。


ギイの手が僕に伸びる。

「たくみ」

心配そうな顔。


僕はとっさに身体を引いた。

「触らないで!」

僕が病気なら、ギイには感染させない。


まだ病院から連絡はない。

検査結果を聞きに来なさい、ではなかった。

結果が出次第電話します、と。


こういうのは、あまり良くない知らせだ。


拒否られたギイは、呆然としている。


ごめん

ごめんなさいギイ

きみを巻き込めない。


ギイの心配そうな顔。

ああ、いいな

幸せだな。

感染してるかもしれない病気、死に至るのかな。

大して生に執着してるわけじゃない。

いつ死んでもいいってずっと思ってた。

だから、死ぬのは怖くないけど…


「たくみ?泣くほど痛い?苦しい?」


え?


ギイの手が、僕の頬を撫でます。


僕は初めてギイの顔を真正面から見ました。


そんなに僕に真摯にならないでください。


親ですら、産まなきゃ良かったって後悔した僕です。あなたの気を煩わせる価値ありませんよ。


でも

やだなぁ

死ぬの嫌になってしまいます。


あなたがいるのに

死にたくない。


触れなくなっても

あなたには会いたい。


僕の涙が止まらないので、ますますギイが心配します。

「高林から聞いたから、どんなことが起こったか知ってる。

 高林は、これでオレがお前から離れるとでも思ったんだろうけど、オレはそんな中途半端にお前と付き合ってないよ。

 オレはお前といたいし、お前を守りたい」


「で、も、僕、何か病気うつされたかも、で」 


「大丈夫だよ」

ギイが僕を抱き寄せます。


「大丈夫」


何の根拠もないのに、僕は不思議に安心しました。


ギイに触られていいのかな。

何かうつらないかな。


ギイが僕の顔を上向かせます。


唇が、重なる…


え、大丈夫だっけ


僕は触れられて嬉しくて、でも力なくギイの胸を押し返しました。

「僕、病気持ってるかもだよ。

 触らない方がいい」

「関係ないよ。心配くらいさせてよ。

 オレはたくみの彼氏だろ」

「ギイは、いずみちゃんの…」

「別れたよ」



ギイが笑う。

「土台無理だよ。

 好きでもない奴と付き合うとかって。

 たくみが変なこと言うから聞いただけのことで。

 もう無理。

 たくみをこんな目に遭わせて…

 許せるわけない」


「いずみちゃんと別れたなら、僕はもう」


ギイに指で唇を止められる。

「もうお前のワガママは聞かない」


ワガママ…


「オレはお前の身体が回復するまで、お前以外といない」


ああ、同情。

なら、いいです。

その間くらい甘えましょう。


ギイにキスされて、舌を入れられて

心配になる。

医師から、するな、って言われたけど

「ギイしたら駄目。

 お医者さんから止められた」

ギイは、僕の身体を触るのを止めない。

「ちゃんと着けるから」


ギイは、僕の身体を見て

「ひどいね」

と眉を寄せたけど、なるべく痛くないようにローションと薬を塗りながら僕を抱いた。


まだ身体は痛かったけど


とても幸せだった。


もう、病気で死んでもいいなぁ…